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難敵来襲(17)

「弘毅…」 「…何」 「その『達也さん』に会わせろ。今すぐ。」 「はあ?こんな時間に?明日じゃダメなの?」 「お前のためなら何でもするんだろ? 会わせろ。」 「………聞いてみる。」 弘毅は鞄から携帯を取り出すと、離れて電話を掛け始めた。 所々会話が漏れ聞こえる。 「…あ、達也さん?……お疲れ様です。 ……ええ、はい。ありがとうございます。 あの、実は………はい、ごめんなさい。 はい、で、今から……はい、はい。 ……そうなんです。え?本当に? ごめんなさい。はい…………」 弘毅が戻ってきた。 「今仕事が終わったところだから15分くらいでここに来てくれるって。 …大兄ちゃん…絶対に失礼なこと言わないでよね。」 俺のことより恋人の心配か。 兄ちゃんがどんなにショックを受けて傷心なのか分かってんのか?分かってねーだろっ。 「…その時にならないと分かんねーな。」 「…大兄ちゃんの…ばかっ!!」 「なっ」 「大兄ちゃんなんか大嫌いっ!」 何ぃ!?…ばか…大嫌い…大嫌いっ!? 「おい、弘毅。」 「…もう、分かってもらえなくてもいいよ。 俺は大兄ちゃんに何を言われてもいい。 でも、達也さんには嫌な思いをさせたくない。 大兄ちゃん…今までお世話になりありがとうございました。 弟は小兄ちゃんだけだと思って。 俺のことは最初からいなかったと思って。 …もう、会うこともない、と思う。」 弘毅は最後は涙声で…鞄から着替えを取り出すと、さっさと着替え始めた。 何だと!?何言ってんだ? 「弘毅…」 弘毅は財布を取り出すと、テーブルにお札を2枚置いた。 「今日のディナーと、ここの宿泊費。 足りなかったらごめんなさい。 大兄ちゃん、サヨナラ。」 あまりのショックにフリーズしていた俺は、弘毅がくるりとドアに向かった瞬間に正気に戻った。 スリッパを蹴散らし走り寄ると、弘毅の肩を掴んだ。 「弘毅っ!待てっ!話はまだ終わってないっ!」

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