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コイツが『恋人』!?(1)
来たっ!
「はい」
急いで鍵を外しドアを開けると………
目の前に、俺より少し背の高い、眼光の鋭いイケメンが立っていた。
「お待たせしてすみません。
初めまして。赤石達也と申します。」
少し息が荒く感じるのは急いで走ってきたのだろう、額がじわりと汗ばんでいる。
嫌味のない微かな香水の香りが鼻腔を擽る。
コイツが…弘毅の……
「弘毅の兄の勝義です。お仕事でお忙しい中お呼び出てして申し訳ありません、どうぞ。」
動じていないフリを…虚勢を張って招き入れた。
弘毅が椅子から立ち上がった。
「達也さんっ!」
その名を呼び、俺を擦り抜け奴の前に飛んできた。
「こんな時間に無理言ってすみません。
仕事中だったんでしょう?」
「大丈夫だ。心配いらない。それより…お前は大丈夫か?」
労うような優しい声。
弘毅は黙って奴を見つめ、ポロリと涙を溢した。
それだけで瞬時にここで何が起こっていたのか察したのだろう、弘毅の頭をそっと撫でると俺に向き直り一礼した。
「改めて、初めまして。赤石達也と申します。
私は弘毅君と同じ部署の人事部で部長職に就いており、彼の上司に当たります。
結婚を前提に真剣に弘毅君とお付き合いさせていただいています。
…世間では受け入れ難い関係かもしれません。
でも、私は生涯を共にするのは彼以外考えられません。
一生彼だけを愛し、彼と共に幸せになる道を進んで行きたいと思っています。
どんなことがあっても、私の命にかけて彼を守ります。
どうか、どうか私達のことをお許し下さい。認めて下さい。よろしくお願い致しますっ。」
なんつー、どストレートな…直球勝負。
嘘偽りの、無駄のない言葉。
悔しいけれど、真っ直ぐな…一途な思いがひしひしと伝わってくる。
頭を下げ続ける“弘毅の恋人”。
それを見た弘毅もすぐに頭を下げた。
許す許さない以前より、真っ正直な心意気に感動していた。
我ながら優しい声が出ていた。
「…頭を上げて下さい。」
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