弘毅が突然 「マスターが言ってたのって、そのこと？ そんな酷い目に遭ってたの？だから人事部に？」 「そう。社長達は『君のせいではないのだけれど』と気の毒がって、今のポジションを与えてくれたんだ。 その分、会社に社長達に貢献しなければ、と色々社内の改革提案や削減なんかをして、最近やっと古参の社員達にも認めてもらえるようになったばかりだ。」 「そうだったんだ…」 「で？ 女性はもううんざりだ、だからちょっとかわいい自分の言うことを聞く弘毅(男)の方がいい、ってそういうことですか？」 「大兄ちゃんっ！何てこと」 「弘毅、いいんだ。 確かに、もう女性と誰とも付き合うつもりはありませんでした。だからと言って男性をという訳ではありません。 頑なだった私の心を溶かし温め、人間らしい心を取り戻してくれたのが弘毅なんです。 真っ直ぐで純真で優しくて、それでいて芯が強く自分というものをしっかり持っている、そして何よりも私のことを一途に思ってくれる…こんなひとにこの先会えるとは到底思えません。 弘毅だけ…弘毅しかいないんです。」 「達也さん…」 見つめ合う2人。 弘毅の目がまた潤んできた。 「…この先、弘毅が『やっぱり女の子の方がいいから別れて』と言ってきたらどうします？ 元々弘毅はノーマルなんだ。そんなことだって無きにしも非ず。」 「その時は…精一杯私の気持ちを訴えても弘毅の気持ちが変わらなければ…私は身を引きます。」 「達也さんっ。そんなこと、そんなことないからっ。」 「弘毅黙ってろ。 弘毅の幸せを思ってその時に身を引くなら、今身を引くのと同じじゃないんですか？ 弘毅の幸せを考えて下さるなら、今、ここで、別れてくれませんか？」 「大兄ちゃんっ！」 弘毅が立ち上がった。 その拍子に椅子がガタンと後ろに倒れた。 「俺だって、俺だって達也さんだから…男とか女とか関係なく、達也さんだから好きになったんだ！」 涙声で弘毅が叫ぶ。