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コイツが『恋人』!?(4)
なおも弘毅は悲痛な声で叫ぶ。
「この先、達也さん以外の人とは付き合う気もないし結婚しない。
達也さんは俺に他に好きな人ができたら身を引くと言ったけど、逆に達也さんに好きな人ができても、俺は絶対諦めない!
大兄ちゃんがどんなに説得しようとしても、俺の気持ちは変わらない。
これからも、いつまでも。
俺は…達也さんしか嫌なんだ。
このひとを……達也さんだけを愛してるんだ。」
「弘毅…」
泣きじゃくる弘毅を奴が椅子に座らせる。
大人の男がこんなに泣くのを初めて見た。
宥めるように、奴が弘毅の背中を暫く摩っていた。
だーかーらー、弘毅に触るなっつーの。
「…お義兄さん。」
黙れ。
お前に“お義兄さん”と呼ばれる筋合いはない。
「お義兄さん、私達はもう離れることはできません。
どうしても許さないと仰るなら……」
「…どうするつもりだ?」
「弘毅を私の籍に入れます。強硬手段です。
理解していただき祝福されてから、と思案していましたが…そうもいかないようです。
弘毅を1番理解されているはずのお義兄さんですら大反対だ。ご両親ならもっと酷く反対されるでしょう。
私は法的にも弘毅を守り抜きたい。
承諾をいただかないままですが、お許し下さい。」
「当たり前だろっ!!
そんなもん許す訳ねーだろーがっ!
おい、弘毅、目ぇ覚ませ!お前洗脳されてんだっ!
会社は辞めさせる。こんな奴から1日でも早く物理的にも離れさせる。
実家に帰らせるからそのつもりで。
アンタも覚悟しな。会社にも伝えてそれなりの処分は受けてもらうからな。」
すると、弘毅がスッと奴の前に立ち塞がった。
涙で潤んだ目をしているが、もう泣いてはいなかった。
「俺は退職しない。実家には帰らない。
達也さんに手を出させない。
さっき言ったよね?
もしそんなことしたら絶縁するって。」
今までに聞いたことのないような声だった。
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