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コイツが『恋人』!?(6)
バタン
ひとり取り残された。
弘毅は掻き消すように消えてしまった。
おれは暫く呆然としてその場から動くことができなかった。
数年振りにやっと会えて、楽しい数日間を過ごせると思っていたのに。
思いっ切り甘やかして、美味いものを食べさせ、弘毅の欲しい物を買ってやろうとあれこれ算段していたのに。
どうしてこんなことになってしまったのか。
鏡台の上のピン札が物悲しく置かれている。
誰かと暮らしていることに気付かぬフリをすれば良かったのか。
その“誰か”を追求しなければ良かったのか。
そうすれば今頃、2人で酒でも酌み交わして、大人の話でもしていたのかもしれない。
弘毅が見せた初めての顔。
俺に絶縁を言い渡した時の、何もかも振り切った顔…
アイツを見つめて、俺達に甘えるのとは違うあんな…花が綻ぶような、色気のある蕩けるような顔…
どれも俺の知っている弘毅ではなかった。
そりゃそうだよな、いつまで経っても子供じゃない。弘毅だって成人を過ぎた一端 の大人だ。
恋愛の一つや二つあって当然だが、よりによって何で相手が男なんだ!?
アイツがあんな風に弘毅を変えたのか?
どうして、男同士でどうしてあんなに思い合っているんだ!?
弘毅のあんな安心しきった甘えを見せた姿は…俺達には、ない。
アイツはかなりの溺愛体質だと思う。俺と同じニオイがする。間違いない。
弘毅は今…アイツの部屋で…アイツの胸で…泣いてるんだろうか…
俺よりも家族よりもアイツを選ぶと言い切った弘毅。
俺はこのまま最愛の弟を失ってしまうのか?
それでいいのか?
いや、いいはずなんてない!
どんな弘毅でも、弘毅は弘毅だ。俺の大切な弟だ。
じゃあ、認める?
いや、そんなことできやしない。
両親に何て伝える?
親父なんて無理矢理にでも弘毅を連れ戻すだろう。そして、アイツを徹底的に抹殺する。それは大いに予想がつく。
そうなったら弘毅は――俺達の元から消えるだろう。
このままじゃダメだ。
俺は大きく深呼吸して、名刺の携番をタップした。
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