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兄貴の度量(1)

中々繋がらない。ずっと呼び出し音が続いている。 まだ帰宅途中なのか。マナーモードで気付かないのか。 焦る思いと裏腹に、無機質な呼び出し音が嘲笑う。 諦めて、一旦携帯をテーブルに置いた。 2人の仲を認めない。 絶縁はしない。 そう決めてはいるものの、あの信頼し合った様子を見てしまった今は納得した結論は出ていない。 正直迷いはある。 俺達の望む道と弘毅の選ぶ道はあまりにギャップがあり過ぎる。 しかし、今の弘毅に何を言ってもきっと通じないだろう。 弘毅には何があっても絶対に幸せになってもらいたい。 会って何を話せばいいのかも分からない。 とにかく今のままではダメだと、それだけは分かっている。 もう一度掛けようと携帯に手を伸ばした時、着信が! 画面には、さっき掛けた登録していない番号。 アイツだ! 「はい、若林です。」 『赤石です。先程は大変失礼致しました。 お電話頂戴していたので掛け直させていただきました。』 「弘毅は…どうしていますか?」 『今は落ち着いています。大丈夫です。』 「そうですか… このままでは納得いかないんです。 お忙しいと思いますが、明日お時間いただけませんか?弘毅抜きであなたと二人で話がしたい。」 『承知致しました。 すみません、週末で立て込んでて休めなくて…午後から…14時からなら調整できます。 場所はどうしますか?』 「申し訳ないが、このホテルにご足労願えますか? あなたの家なら弘毅がいるでしょう?」 『そうですね。明日は休みを取っていますから…では14時にそちらに伺います。』 「では明日。お願いします。」 『はい、承知致しました。失礼致します。』 電話を切った。 心臓がバクバクと跳ねている。改めてサシで話す段取りをした俺は、冷蔵庫からビールを取り出すと一気に煽った。

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