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兄貴の度量(10)
覗き穴を確認した茂明が叫んだ。
「弘毅っ!?」
えっ!?弘毅!?何で?
ドアを開けた瞬間、茂明も目に入らないのか、弘毅が真っ直ぐに俺達の所へ飛び込んで来た。
その目は潤み腫れているように見えた。
「弘毅…今日は家にいろと…」
そう弘毅に告げながらも、絨毯の上に正座をして両手をついたままの奴を見た弘毅は、一瞬で何が行われていたのか悟ったのだろう。
俺を一瞥すると奴の隣に座り込み、その両手を取って握りしめ、顔を上げさせた。
「達也さん…もう、もう止めましょう。
もう、いいんです、認めてもらわなくても。
俺がどうしたら幸せになるのかなんて、分かり切ったことですから。
俺の家族はあなただけです。
さ、帰りましょう。嫌な思いをさせてごめんなさい。」
そして、真っ直ぐに俺の方を向いて
「俺はこの人なしでは生きられない。
…もう、二度とお会いすることも無いと思います。
大兄ちゃん、今までお世話になりありがとうございました。」
正座をして美しいお辞儀をした弘毅は、俺を見てにっこりと微笑むと、奴の手を引っ張り立ち上がろうとした。
奴はそれを制して
「弘毅、それはダメだ。
納得していただくまで俺は」
「達也さん、俺はあなたがいてくれればそれでいい。
若林家との絶縁は、もう、とうに覚悟はしているんです。
『一生幸せにする』っておっしゃったでしょう?
その通りにしてもらいますから、覚悟して下さいね。」
そのやり取りを聞きながら、俺は昨夜のデジャヴに頭がクラクラしていた。
このまま弘毅が俺達の元からいなくなる!?
そんなのは嫌だ!
あり得ないっ!
でも、弘毅は俺達よりコイツを選んだ…一体どうすれば…
と、そこへ、何とも呑気な声が聞こえた。
「まぁまぁ、弘毅、落ち着きなよ。
ほら、取り敢えずそこ座って。
赤石さんも。もう土下座はいいからさ。」
「えっ…小にいちゃん!?どうしてここに?
いつからいるの?」
「今朝着いたんだよ。兄貴からお前のこと聞いたから。」
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