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兄貴の度量(16)
そこからは、俺以外和やかムードで話が進んでいく。
鬱々とした気持ちを抱えたまま3人の話を他人事の様に聞いているうちに、いつの間にかカーテンの外は茜色に染まっていた。
奴が切り出した。
「もしよろしければ、私達の家で一杯飲みながら晩ご飯でも如何ですか?
な、弘毅。
俺達の家を見ていただこうよ。」
「え、いいんですか?
大兄ちゃん、小兄ちゃん、ぜひそうして!」
戸惑いと喜びをごちゃ混ぜにして俺達を誘う弘毅に、茂明は
「えっ、いいの!?高級マンション行きたいっ!
にーちゃん、ご招待受けようぜ。」
と手放しの喜び様。
俺の返事を待たずに、出前にするか途中で何か買っていくかと、弘毅と茂明で盛り上がっている。
何だよ…また蚊帳の外かよ。
ふと視線を感じて横を向けば、奴がこちらを見ていた。
「お義兄さん、ぜひいらして下さい。
弘毅の生活の場を実際に見ていただければ、ご心配事も少しは和らぐかと…」
そうか、それもそうだな。
「…分かった。お邪魔する。」
「そうと決まれば、早速移動しようぜ。
ここじゃあ流石に窒息しそうだよ。
弘毅、赤石さん、お邪魔します!」
能天気な茂明は出掛ける支度をし始めた。
「にーちゃん、早く!」
せっつかれるように貴重品を持たされドアの外に押し出されると、茂明はカードキーを確認して最後にドアを閉めた。
…車まで高級車かよ。どんだけ金持ってるんだ!?
確かに、将来的に弘毅に負担を掛ける生活はなさそうだ。
後部座席に身体を埋めると、レザーの張りのいい感触に包まれる。
「達也さん、この時間ならまだオードブルとかありますよね?」
「ある程度取り置きしてもらってるから大丈夫だよ。」
「えっ、もう!?くすくすっ。いつの間に?」
どうやら何処かに寄って食料を調達するらしい。
2人の言葉の端々に、常日頃の生活が垣間見えた。
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