132 / 280

兄貴の度量(19)

それからマンションに到着するまで俺を除いた3人で話が弾み、俺はぼんやりと窓を流れる景色を見つめていた。 始めのうちは、皆んな気にして俺に話を振ったりもしてくれていたけれど、そのうち誰も俺に声を掛けなくなった。知らん顔しているから当然か。 気遣いという名の無視。 さっきの茂明の言葉が頭をリピートしている。 『何がいいとか悪いとかじゃない、弘毅が幸せかどうかだ。』 そうだよな、それが1番大事なんだ。 弘毅は、奴と『一生添い遂げたい』と言い切っていた。 よく観察していると、悪い奴ではなさそうだ。 何よりも弘毅のことを愛しているのはありありと分かる。 弘毅お前、俺達以上の愛を奴から受けているのか… 俺は… 何度か恋愛もした。結婚を意識した彼女もいた。遠距離で別れたけれど。 でも、こんなに心繋がった付き合い方をしていただろうか。 自分を犠牲にしてまでも、相手のことを思い守り慈しみ合うような、そんな関係を… 「兄ちゃん達、着いたよ!」 弾むような弘毅の声に顔を上げると、目の前にエントランスも煌びやかな高層マンションが現れた。 「すっげぇっ!こんな所に住んでんの!? 羨ましいなぁ…」 茂明がため息混じりに呟いた。 「すげぇ…赤石さん、アンタ一体どれだけ稼いでんの?」 「それ程でもないですよ。」 と返された。 いやいや、それ程でもあるだろうが! …まぁ、弘毅が金に困る生活でなければそれでいいんだが。 駐車スペースに滑るように収まった車を降り、案内されるままエレベーターに乗り込んだ。 気持ちが高揚している。単身、敵地に乗り込んで行く気分だ。 「さ、どうぞ。」 「兄ちゃん、どうぞ!」 「「お邪魔します。」」 招かれた部屋は…すっきりとお洒落な家具に、ちらほらと生活感の漂う居心地の良さそうなリビング。 あ、このカーテンの色は弘毅好みか。 さり気なくそれでも隅々までチェックするように視線を這わせる。

ともだちにシェアしよう!