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兄貴の度量(19)
それからマンションに到着するまで俺を除いた3人で話が弾み、俺はぼんやりと窓を流れる景色を見つめていた。
始めのうちは、皆んな気にして俺に話を振ったりもしてくれていたけれど、そのうち誰も俺に声を掛けなくなった。知らん顔しているから当然か。
気遣いという名の無視。
さっきの茂明の言葉が頭をリピートしている。
『何がいいとか悪いとかじゃない、弘毅が幸せかどうかだ。』
そうだよな、それが1番大事なんだ。
弘毅は、奴と『一生添い遂げたい』と言い切っていた。
よく観察していると、悪い奴ではなさそうだ。
何よりも弘毅のことを愛しているのはありありと分かる。
弘毅お前、俺達以上の愛を奴から受けているのか…
俺は…
何度か恋愛もした。結婚を意識した彼女もいた。遠距離で別れたけれど。
でも、こんなに心繋がった付き合い方をしていただろうか。
自分を犠牲にしてまでも、相手のことを思い守り慈しみ合うような、そんな関係を…
「兄ちゃん達、着いたよ!」
弾むような弘毅の声に顔を上げると、目の前にエントランスも煌びやかな高層マンションが現れた。
「すっげぇっ!こんな所に住んでんの!?
羨ましいなぁ…」
茂明がため息混じりに呟いた。
「すげぇ…赤石さん、アンタ一体どれだけ稼いでんの?」
「それ程でもないですよ。」
と返された。
いやいや、それ程でもあるだろうが!
…まぁ、弘毅が金に困る生活でなければそれでいいんだが。
駐車スペースに滑るように収まった車を降り、案内されるままエレベーターに乗り込んだ。
気持ちが高揚している。単身、敵地に乗り込んで行く気分だ。
「さ、どうぞ。」
「兄ちゃん、どうぞ!」
「「お邪魔します。」」
招かれた部屋は…すっきりとお洒落な家具に、ちらほらと生活感の漂う居心地の良さそうなリビング。
あ、このカーテンの色は弘毅好みか。
さり気なくそれでも隅々までチェックするように視線を這わせる。
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