138 / 280
酔虎(5)
俺は一体ここに何しに来たんだろう。
断片的な記憶は残っている。
確かに…… しつこくしつこくしつこく、達也に詰問して思いっ切り絡んでいた…間違いない。
「はぁ……」
大きくため息をつく。
アルコールの苦味がまだ口内に残っている。
「大兄ちゃん、これ。小兄ちゃんも。」
弘毅に手渡されたのはパッケージに入った新品の歯ブラシとカミソリ、そして肌触りの良いタオル。
「おっ、ありがとう。気が利くな。」
「弘毅、準備いいな。いつも誰か泊まりに来るのか?」
「ううん。夕べ達也さんが買いに行ってくれたんだ。シェービングフォームは洗面所の右扉にあるからそれ使って。」
「…そうか、サンキュー。」
イケメンは気配りもできるのか。
完全なる敗北。
分かった、分かったよ。俺の負けだ。認める。
「洗面所借りるぞ。」
のそりと起き上がり、鏡に映る自分と対峙する。
今日もまた酷い面。
酒は飲んでも飲まれるな。
んー、何かのスローガンのようだ。
あの程度で酔っ払ってしまうなんて、俺も焼きが回ったもんだ。
達也に色んなことを追求してやろうと思ってたのにできなかった。
結局俺は『達也は絶対に弘毅を幸せにする』というただひとつの確証が欲しかっただけなのだ。
そしてそれは達成された。
洗面を済ませるといくらかはマシな顔つきになった。
リビングに戻ると、味噌汁と卵焼きのいい匂いがしていた。
弘毅が俺達のために朝食を用意してくれていた。
ん?3人分?
「おはようございます。勝義、二日酔い大丈夫か?
朝食もできてるから食べてくれ。」
「あぁ、達也…おはよう。大丈夫だ。
絡んで酔い潰れてすまなかった。
迷惑掛けて悪かったな。」
達也は笑いながら首を振り、洗面所に向かう。
昨日よりも気持ちの距離が近付いている。
「にーちゃーん!腹減ったよー、早く!」
相変わらずマイペースの茂明は、顔も洗わずにもうスタンバイしていた。
ともだちにシェアしよう!