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母親の勘(6)
翌日、宣言通り定時で帰ってきた主人と少しおめかしをして倉橋家へ向かった。
「こんばんはー。」
「はーい!あら、加奈子さん!繁さんも…お二人でどうしたの?
うちの人も帰ってきてるから上がって頂戴。
お父さぁーん!」
「じゃあちょっとお邪魔するわね。
忙しい時間にごめんなさいね。」
「いいのいいの。どうせ2人なんだもん。」
「おっ、繁 !どうしたんだ?加奈子さんも…」
「おい、英、お前水臭いぞ。」
勝手知ったる他人の家。ガヤガヤと会話しながらリビングに通された。
主人が胸元からふくさを取り出し、ご祝儀袋をテーブルに置いた。
「今日来たのはな、これを……
貴君のご結婚おめでとうございます。
心ばかりのお祝いだが渡してやってくれ。
もっと早くに言ってくれりゃあいいのに。
お前なーんにも言わねぇんだもんな。」
「そんな…気ぃ使わすから言わなかったんだよ。」
「お前にやるんじゃない。貴君に渡してくれ。
お祝い事だ。皆んなで祝ってやらねーと。」
「…ありがとう。遠慮なく受け取らせてもらう。加奈子さん、気を使わせて済まなかった。ありがとう。
あのな、聞いてるかも知れんが、普通の結婚じゃないんだよ、だから」
「貴君達が幸せになればいいのよね?
英さんも認めたんでしょ?
じゃあ堂々としてればいいのよ。
ねぇ、結婚式の写真見せてよ。できてるの?」
「まだスナップ写真しかないけどね。
良かったら見てくれる?」
「勿論よ!」
早苗さんと私は写真を見ながら盛り上がり、そして旦那同士は何やらこそこそと密談をし始めた。
「うわぁ、素敵…この子?お相手の子は。
本当にかわいい顔してるのね。
アイドルみたいよ。皆んな幸せそうだわ。」
「そうなの!自慢の息子が増えちゃった。」
「…ねぇ、早苗さん。
昨日も聞いたけど……後悔、してないの?」
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