163 / 280

母親の勘(7)

早苗さんは、ふふっと笑った後、暫く考えていたが 「……そうねぇ…後悔してない、って断言したら嘘になるわね。 今でもまだ何%かは迷ってるんだと思う。 だって、貴は“普通に”恋愛して“普通に”結婚するって信じて疑わなかったから。 私の育て方が悪かったのか、一体何が悪かったのか、って随分悩んだのよ。 でもね。 貴が今まで見せたことのない顔で 『許してもらえないなら親子の縁を切ってもらっても構わない。  俺は全身全霊を掛けてコイツを守ると決めたんだ。 父さん母さん、俺を生んで育ててくれて、本当にありがとうございました。 そのお陰で、俺は一生大切にしていく相手と巡り合えた。 感謝してます。』 なーんて言われてご覧なさいよ。 我が息子ながらいい男に育ってくれたな、って感動したの。馬鹿みたいでしょ、私。 孫を抱っこできないのは悲しい。 でも、“普通の”カップルでも恵まれない人達もいる。結婚しない選択の人だっている。 そう思ったら、貴がそこまで思う相手に巡り合ったのなら、許してもいいかな…って。 お父さんはね、もう殴りかからんばかりの勢いで、勘当する、親でも子でもない、出て行け、ってそれはそれは大変だった。 ところがナオ君…あ、素直のナオに人で直人っていうんだけど… 『僕は殴られても蹴られても構いません。 どんなに蔑まれてもいい。 どんな目にあっても構わない。 でも、貴と親子の縁を切るのだけは勘弁してくださいっ!』 って土下座するのよ。 結婚の許しを請うより、親子の縁を大事にしてほしいって言うナオ君に、お父さんの怒りがダウンしちゃって。 振り上げた拳の下ろしどころがなかったから、それに乗っかった感があったんだけど。 結局、2人の気持ちが変わらない本物だ、ってことで、渋々認めるに至ったのよ。 だからね、正直両手を上げて『結婚万歳』って訳ではないの。 あ、嬉しいのよ、嬉しいんだけど…複雑なの。」

ともだちにシェアしよう!