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本気(2)
達也さんは書面を眺めたまま姿勢を崩さない。
息をするのも憚られるような空気。
「弘毅、これを。」
目の前に差し出された書面を両手で受け取った。
真っ白な和紙に黒々とした墨が踊る。
和紙の軽さに反して、物凄く重みのある大切な物を渡された気がした。
「…凄い…」
かっちりとした文字で力強く書かれた『身上書』。
氏名から始まり、生年月日、本籍、住所……と続き、うわぁ、最終学歴は超有名某国立大学だぁ。頭いいはずだ。
資格も半端ない数。どれだけ努力してるんだろう。凄い。
学生時代から、就職してからも…やっぱり達也さんは元々が凄いけど、それに甘んじることのない努力の人なんだ。
特技は…え?弓道?国体も行ってる!?意外…でも、絶対カッコいいはず、見てみたい。
頭の中に矢を射る達也さんが浮かんだ。カッコ良過ぎて身悶えしそうになるのを必死で我慢する。
趣味、野球観戦。へぇ…どこのファンなんだろう。俺は特に贔屓の球団はないけれど、一緒に球場に行けるといいな。
身長、体重…うん、そうだろうな。それくらいあるよな。
既往歴もなし。
俺の恋人は、見た目も中身も完全完璧なスパダリだった……
達也さんの本気に感動して、オマケに文字から伝わる圧が強過ぎて、俺は暫くそれを見つめたまま動けなかった。
「弘毅?」
「……達也さん…本当に、文字ってその人となりを表すんですね…俺、感動してます…凄い…達也さんって、やっぱり凄い人なんだ。
それに比べて俺は…何も持ってない。」
「弘毅。」
名前を呼ばれて顔を上げた。
達也さんの目力に圧倒されて視線を逸らすことができない。
「弘毅。俺はお前の慎ましやかで優しいところに、本当に癒されているんだ。
お前は聡くて頭の回転も早い。
その場の空気を読んで和ませることも上手い。
顔も勿論俺好みのどストライクだが、身体の相性も最高だ!」
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