166 / 280

本気(2)

達也さんは書面を眺めたまま姿勢を崩さない。 息をするのも憚られるような空気。 「弘毅、これを。」 目の前に差し出された書面を両手で受け取った。 真っ白な和紙に黒々とした墨が踊る。 和紙の軽さに反して、物凄く重みのある大切な物を渡された気がした。 「…凄い…」 かっちりとした文字で力強く書かれた『身上書』。 氏名から始まり、生年月日、本籍、住所……と続き、うわぁ、最終学歴は超有名某国立大学だぁ。頭いいはずだ。 資格も半端ない数。どれだけ努力してるんだろう。凄い。 学生時代から、就職してからも…やっぱり達也さんは元々が凄いけど、それに甘んじることのない努力の人なんだ。 特技は…え?弓道?国体も行ってる!?意外…でも、絶対カッコいいはず、見てみたい。 頭の中に矢を射る達也さんが浮かんだ。カッコ良過ぎて身悶えしそうになるのを必死で我慢する。 趣味、野球観戦。へぇ…どこのファンなんだろう。俺は特に贔屓の球団はないけれど、一緒に球場に行けるといいな。 身長、体重…うん、そうだろうな。それくらいあるよな。 既往歴もなし。 俺の恋人は、見た目も中身も完全完璧なスパダリだった…… 達也さんの本気に感動して、オマケに文字から伝わる圧が強過ぎて、俺は暫くそれを見つめたまま動けなかった。 「弘毅?」 「……達也さん…本当に、文字ってその人となりを表すんですね…俺、感動してます…凄い…達也さんって、やっぱり凄い人なんだ。 それに比べて俺は…何も持ってない。」 「弘毅。」 名前を呼ばれて顔を上げた。 達也さんの目力に圧倒されて視線を逸らすことができない。 「弘毅。俺はお前の慎ましやかで優しいところに、本当に癒されているんだ。 お前は聡くて頭の回転も早い。 その場の空気を読んで和ませることも上手い。 顔も勿論俺好みのどストライクだが、身体の相性も最高だ!」

ともだちにシェアしよう!