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由美江おばさん(1)

side:勝義 出張から帰ってすぐ休みの申請をした。思った通り、上手いこと忙しい時期が外れた日程だった。 すぐにそれは許可されて、大手を振って休めることになった。 俺の会社はあまりプライベートなことに立ち入らない。私用で申請してもほぼ詮索されない。 その点は凄く助かる。 早速茂明にメッセを送った。 「お疲れさん。 俺は休み取れたぞ。 お前は大丈夫か?」 すぐさま 「俺も大丈夫だよ! 今夜にでも新幹線の時間打ち合わせしようぜ。」 OKとひと言だけ返信して、ホッと溜息をついた。 衝撃の出張だった。 いや、仕事そのものは超がつく程順調に終了したから問題はない。 大問題だったのは弘毅のことだ。 恋人がいたのはいい。それは普通のことだから許す。 ただ普通じゃなかったのは、その相手が『男』だったってことだ。 今でもあれは夢だったんじゃないかと疑うのだが、いかんせん、俺のキーケースからひょっこりと顔を覗かせるノコギリザメのキーホルダーが 『ふんとだら(本当だよ)』 と笑っている。 (分かってるよ)と鼻先を突っついていると、同期の小川が茶化してきた。 「何だ!?顔に合わないかわいいキーホルダー付けてるじゃないか。 元カノの忘れ形見か?それとも新しい彼女からか?」 「ばーか。どっちも外れ。 かわいいかわいい末の弟からのプレゼントだよっ。」 「えっ…お前ブラコンだったの? へえっ、そう……」 「何だよ、その可哀想なものを見るような目付きは。 あっ、それより俺来月休むからよろしくな。」 「ふーん、そうか。分かったよー。 何処に行くか知らないけど、お土産よろしく!」 「はいはい。」 ひらひらと手を振る小川の後ろ姿を見ながら、訪問のことを考えると気が重くなってきた。

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