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由美江おばさん(2)

由美江おばさんは―― お袋の4つ上に当たる。 つい最近までバリバリ働いていたが、あちこち身体に不調が出始めて『これからは自分を大切にする!』と宣言して、すっぱりと仕事を辞めてしまった。 おばさんが居なくなった社内は暫く騒然となり、取引先からも『何故辞めさせたんだ!』とクレームの嵐がくるくらいのデキる人だった。 親父は結婚当初から、まるで自分の上司のようなおばさんが苦手だったらしく、親戚の集まりでも側に近付かなかった。 おばさんに何か言われると、尻尾を巻いた犬のようにシュンとなるのがおかしくて、兄弟3人でこっそりと眺めていたもんだ。 サバサバとした竹を割ったような性格でよく小遣いも貰ったから、何かにつけておばさんにコンタクトを取っていた俺達にとっては、頼りになる存在な訳だ。 ちょっとやそっとのことでは動じない。 多分、弘毅のことだって、そんなには驚かないはず。 逆におじさんは大人しくて、いつもおばさんの後ろでニコニコしている人だ。 案外、陣頭指揮を取るおばさんに首輪を付けて、笑いながらリードを操作しているのかもしれない。 こういうタイプの方が結構怖いんだわな。 (どうやって切り出せばいいのか) そればかりを考えて、とうとう出発当日になってしまった。 土産も忘れずに買った。茂明にも確認済みだ。 『昼飯も済ませて行く』と告げたら、『アンタ達が遠慮するなんて気持ち悪い。予約しておくから〇〇へ来なさい!』と、問答無用で切られた。 相変わらずの男前だ。 「茂明っ!」 「にーちゃん、久し振り〜。 どう?少しは落ち着いた?」 「……それ聞くなよ。お前は?」 「俺は相変わらずの安定飛行。 なぁ、昼飯おばさんの奢りだろ?和食食べたかったんだよな。ラッキー!」 茂明はやっぱり茂明だった。

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