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由美江おばさん(5)

頭を下げているから表情は見えないが、戸惑いの空気が流れているのが分かる。 吉と出るか凶と出るか。 沈黙の時間がとてつもなく長いものに感じた。 「やぁねぇ。頭上げなさいよ。」 柔らかな声にゆっくりと顔を上げると、微笑むおばさんと、苦笑いのおじさんがいた。 「ねぇ、パパ。久し振りに姉妹で旅行に行ってもいいかしら? お土産は何がいい?」 「そうだな。と○やの羊羹でも頼もうか。あとベタだけど東京バ○ナの限定のやつを。 じゃあその間、俺も久し振りの独身生活を満喫するとするかな。」 「と言うことで。 加奈子を誘う段取りは私がするから。 繁さんは私が一緒だと知ったら、絶対についてこないから大丈夫よ。 それも見越しての私へのお願いなんでしょ? いつがいいのか弘毅達にも確認してね。 でも。」 “でも”何だ!? 「まだ認めた訳じゃない。 相手を見て弘毅の気持ちも聞いた上の話よ。 協力はするわ。 ……加奈子が発狂しなきゃいいけど。」 「それを止めて宥めるのはお手の物だろ? 由美江さん、頑張っておいで。」 「あら、頑張ったら何かご褒美でも?」 「うーん、そうきたか…考えておくよ。」 「ふふっ…あら、やーだ勝義。 泣くのはまだ早いわよ。 ほら、折角の美味しい料理、早くいただきましょう! 茂明!アンタも楽しみにしてたんでしょ?」 緊張感から解き放たれて、不覚にも涙が流れていた。 頭ごなしに断られることもなく、責められることもなく。 ただ受け入れてくれた2人に、深々と頭を下げた後 「ご迷惑掛けてすみませんっ! ありがとうございますっ!」 とお礼を言って、食べ始めた。 取り敢えず一歩進んだ。 達也に会えば、きっと納得してもらえるはずだ。 弘毅、お前達のために、にーちゃんは頑張るぞ。 俺の決意を知っては知らずか、通常運転で談笑する茂明を横目に、俺は黙々と箸を進めた。

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