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由美江おばさん(6)

「じゃあ、俺はここで。 今夜はうちでゆっくり飲もう。お相手のことももっと聞かせてくれよ。 ホテルはキャンセルしておいで。その分くらい出してやるから。」 ひらひらと手を振ってのほほんと去って行くおじさんの後ろ姿に、改めて頭を下げて見送った。 「ふふっ。いいダンナでしょ? 本当に出来たひと。私には勿体ないくらい。 さぁて。 お昼食べたばかりなんだけど、今夜は何食べたい? その前にホテルのキャンセルしなくちゃね。 財務省のゴーサインが出たから支払いは気にしなくていいわよ。 カード払い?それともキャッシュにしたの?」 「あ、カード。 でも、それは俺達が」 「もう。勝義。 アンタしっかりするのはいいけど、私達には甘えなさい。 ほら、早くキャンセルの電話して。」 早く早く、とその場で電話させられた。 その間に茂明からホテル代を聞き出したおばさんは「はい、これ。」と俺にお金を押し付けてきた。 戸惑う俺達に笑いながら言った。 「無理矢理(うち)に来させるんだから当然。 目上の言うことは聞きなさいね。」 「…敵わないよな…おばさん、ありがとう。 遠慮なくいただきます。 その代わり俺達で出来ること何かある?」 「ふふっ。丁度箪笥を移動したかったのよ。 それお願いできる?」 「「勿論っ!」」 夜は焼肉で、と帰りに買い物をすることになった。 『ついでだから』と洗剤やシャンプー類、サラダ油、と重たい物をしこたま買い込んだおばさんの荷物係となった俺達は、心の中で(人を使うのが上手いんだよな。またそれが嫌味がなくてさり気ないんだ。)(どうやってもこの人には敵わない)等と呟いていたのだ。 家に着いて一服した後、着替えて指示される通りに従順に働いた。 その結果、おばさんが大満足する模様替えとなった。

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