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上京(5)

姉は、流石に子供達が小さいうちは一緒に転勤先について行っていたが、そのうち自分の仕事のこともあり義兄さんの留守を守り、今は実家のある金沢に戻ってきた義兄とのんびりと暮らしている。 私は県外に嫁いでそのまま居ついてしまったけれど、2人で喋るとついつい方言が出てしまうのはご愛敬だ。 「加奈子、これ食べまっし(食べて)懐かしかろ(懐かしいでしょ)。」 「あっ、きんつば!嬉しいーっ。いっただきまーす!」 「あーぁあー…そんなにがっついて食べたら、喉詰まる……何しとれんて(してるの)。 ほら、お茶。飲みまっし(飲みなさい)!」 「んぐっ……けほっ、けほっ………あぁ…吃驚した…あははっ。」 彼女にとって、私は今でも『少しそそっかしいけど要領のいい愛すべき妹』らしい。 幾つになっても姉妹は姉妹。 私は瞬時に幼子に戻ってしまう気がする。 「本当にもう…相変わらずなんだから。 ところで弘毅には連絡したの?突然じゃダメねんよ。」 「それは大丈夫! 電話した時には『ええっ!?こっちに来るの!?』なーんてアタフタしてたけど。 あの慌てぶりは彼女でもいるのかもしれんわ。 どんな()か、ちょっこし(ちょっと)乗り込んで見てやらんなんて。」 「まーんで(まるで)姑根性丸出し!おー怖っ。 こんな姑には、なりたないわ(なりたくないわ)。 …気に添わん子ならどうするん?」 「えっ…そんなマジで考えたことないわー。 会ってみてからの話やし。 って言うか、何で弘毅に彼女がいる前提なん?」 「あの年頃の子やったら、おってもおかしくないやん。 実際に見てドン引きせんようにな。」 「千秋ちゃんとこの“熊さん”みたいにか?」 「あははっ。あの熊は大人しいさけぇ、大歓迎やわ。 千秋を貰ってくれるだけでもありがたいと思わんなん。」

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