184 / 280

上京(6)

お互い近況やら昔話やらしているうちに、あっという間に東京駅に到着した。 「はとバスに乗るでぇ!」 コインロッカーに荷物を預け、身軽になった私達は意気揚々と駅の外へ出た。 …と言うと格好いいが、方向音痴の私は人波を必死で避けながら、姉さんの後ろを小鴨のようについて行くだけだった。 こんな所で住めないわー。無理無理。 私は田舎で十分やし。 姉さんが申し込んでいたのは、都内各所を“バスに乗ったまま”巡る周遊コース。 久し振りに姉さんと一緒だし、何たって、ひっつき虫イソギンチャクの大きながいない。 ストレスフリーでめっちゃ楽しかった。 ランチは有名ホテルのバイキング。 あれもこれもと欲張り過ぎて、スカートのホックをそっと外したのはご愛敬だ。 数時間を満喫してバスを降りると、今日のメインの歌舞伎座に向かう。 初めて尽くしで館内に入る前からドキドキだ。 『ニッポンっていいな』 テレビ番組か何かの台詞が頭をよぎる。 もう感動!感動の嵐、いや台風が吹きまくっていた。 「はあっ……すっごい楽しかったぁ! 姉さん、めっちゃ張り込んでお金大丈夫なん? 全部出してもらうなんて、義兄さんにきがねなん(申し訳ない)やけど。」 「あははっ。なーに遠慮しとれんて。アンタらしくない。 『キャンセル料払うくらいなら加奈ちゃんに喜んでもらえ』って。 なぁ、うちのダンナ最高やろ!? だから、大丈夫ねんて!心配なんかせんこっちゃ(しないで)!」 「そうねんて!義兄さんは理屈な(できた)人やさかい。 そういうことなら喜んで!甘えるしヨロシク!」 「さ、ホテル行こうか。」 できた姉にはできたダンナが付いてくるのかもしれない。

ともだちにシェアしよう!