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上京(11)
「私、弘毅のこと、なーんも知らんかった…大学も就職も勝手に決めとったし、知らん間に私らの手から離れていって……
ほうやよね 、就職したてのピヨピヨがこんな高層マンションに住める訳ないよね。
誰かと一緒に住んでる…多分、いや、絶対そうやわ!
何で気ぃ付かんかってんろ。
アホやわ、私。
家賃の補助がちゃんと当たる って聞いとったし、なーんも疑わんかった。
流石都会の企業は違うなぁ、なーんて思ったったし。
なぁ、姉さん。
弘毅、変な人に関わっとったらどうしよう!?
年上の変な女に引っ掛かっとったら……
何やら嫌な予感がする!
なぁ、どうしたらいいん?」
「加奈子、落ち着きぃな。
とにかくそこに行って、見てみんなん !
もし誰かと住んどるんなら、ちゃんと相手も見てみんなんわ。
そんな心配せんでも、弘毅はしっかりしとるさけぇ、大丈夫やわ。な?」
ぐすっ
「加奈子…泣かんこっちゃ !
今更泣いたってしょうがないやろ?
自分の息子、信じてやらんと。
アンタ母親やろ?
ほら…ティッシュ。鼻噛んで。」
「………ごめん、あんやと……弘毅に電話する!今から行くって。」
「そんなせっかちな。まだ早ぉないか?」
「そんなこと言うたって!
ここまで来とるんやもん。昼ご飯なんか外で食べりゃあいいし!」
「…もう……アンタの好きにするこっちゃ。
一度言い出したら聞かんのやさかい。
その代わり、何があっても弘毅のこと責めたらいかんよ。」
「…………」
「ちゃんと話、聞きまっし 。」
「…分かった。」
弘毅に電話を掛けた。
が……中々出ない。
諦め掛けた頃
「はい。」
弘毅!
「おはよう。母さん、まだ早いよ。もう少ししたらお昼ご飯の用意しようと思ってたのに。
どうしたん?」
「こっ、弘毅!今から行くから!」
「はあっ!?」
「お昼の用意はいいから、今から行くから!」
それだけ言って、電話を切った。
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