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上京(12)
咎めるような姉さんの視線を無視して着替え始める。
「本当に言い出したらひとの言うこと聞かんのやし。
一体誰に似たんやろ。
アンタ、繁さんのこと言われへんやん。」
「今関係なかろ。」
「はいはい。可哀想に、今頃弘毅大慌てしとるかもしれんわ。」
何だか大事になりそうな予感しかない。
どうして今まで疑いもなく過ごしてきたんだろう。
母親として失格かもしれん。
どうしよう。どうしよう。
気の強い私が何処かに行ってしまっている。
姉さんが一緒で良かった。
鼻を啜りながら支度を済ませると、姉さんを追い立てて部屋を後にした。
道中、姉さんが色々と話しかけてくるが上の空で生返事ばかり。
弘毅のことが気になって仕方がない。
一体、『誰』と『どんな生活』をしているのか。
心配が心配を生んで落ち着かない。こんな思いをするくらいなら、大学も県外に出さなければ良かった。
「ここ?」
「がんこなマンションやなぁ…何階建て?
本当にこんな所に弘毅住んでんの?
大したもんやなぁ……ま、とにかくインターフォン鳴らそ。」
姉さんがさっさとエントランスに入って行く。
うわぁ、豪華。凄い。
「ホテルみたい…受付?誰かいる…」
「管理員か、もしくはコンシェルジュ。
こんな高級なとこやったら24時間在中のコンシェルジュかもしれん。
えーっと、弘毅の部屋は…」
問答していると、突然内側のドアが開いた。
「母さん!?おばさん!?」
「弘毅っ!アンタ一体」
「はいはい、加奈子。ちょっと黙って。
弘毅、久し振り。
元気なん…言わんでも分かる。元気そうやな、良かった。
早ぅ入れてや。この猛獣何とかせんと。」
「姉さんっ!」
「加奈子。恥ずかしいことせんとき。
一応公共の場所やからな。」
ぐうの音も出ない。
あれもこれも言いたいことがあるけど、ぐっと堪えた。
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