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対峙(1)
上昇するエレベーターとは真逆に、私の気持ちはどんどん下降する。
久し振りに弘毅に会えたというのに。
嬉しくて堪らないはずなのに。
いつもの私だったら所構わずハグしてたのに。
弘毅が全身で拒否しているのを感じて動けなかった。
改めて弘毅を見た。
少し背が伸びたんだろうか。
随分としっかりした顔つきになったこと。
最後に会ったのは何年前だったか。
進学してから滅多に帰省しなくなったから…卒業式の出席さえも拒否されたんだっけ。
だから私の記憶ではまだ幼さの残る少年の弘毅しかいない。
今までも勝義に散々釘を刺された。
『“俺達の過保護ぶりが異常だ”って気が付いて、世間の常識に照らし合わせてるだけのことだよ。
いい加減、子離れしないと将来大変になるぞ。
このままだと弘毅は一生結婚できんかもしれん。
親父もお袋も大概にしとけよ。』
今になってその言葉が重くのし掛かる。
弘毅と姉さんは和やかに話をしている。
何か言葉を発しなきゃと思うのに、喉に詰まって出てこない。
躊躇しているうちに、エレベーターが止まった。
「うわっ、高っ。高所恐怖症の人やったら部屋まで辿り着かんねぇ。
私は好きやけど。」
「おばさんは何処でも平気やろ?
さ、どうぞ。」
招かれた部屋に意を決して入る。
「……お邪魔します。」
「どうぞ。」
!?!?!?
中からバリトンの声が響いた。
男っ!?
リビングのソファーの横に、スーツ姿のイケメンが立っていた。
うえっ!?誰!?めっちゃイケメンやん!?
まさかこの人と住んどるんけ?
一体何者!?
吃驚し過ぎてその人をガン見したまま硬直していた。
背後からゴンッとどつかれて、姉の声が聞こえてきた。
「えーっと、初めまして!
私は弘毅のおばの石原由美江、こちらは弘毅の母の若林加奈子です。
あの…失礼ですけどあなたは?」
「初めまして。赤石達也と申します。
遠い所をようこそ。
どうぞお掛け下さい。」
スマートな立ち振る舞い。
弘毅がすっとお茶を出し終わると、彼の隣に座った。
その様が自然過ぎて、たった一つの結論が浮かんだ。
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