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対峙(5)

私はさっきの取り乱し方が嘘みたいに冷静になっていた。 ここに来て1時間も経っていないけど……この、赤石達也という男性は、とても誠実で賢くて……弘毅のことを性別を超えて真剣に愛しているのだ、ということが分かってきたからだ。 それに弘毅もこの男性(ひと)のことを真剣に思っている。 それこそ私達家族を捨ててもいいとさえ考えるほどに。 弘毅は口に出しては言わないけれど、それくらいの覚悟が伝わってきている。 認めてもいいのだろうか。 私は弘毅の子供をこの手に抱っこして、公園に行って一緒に遊んで、ばーちゃんじゃなくて加奈ちゃんと呼ばせて…なんていう夢を見ていたのに。 親は子供の幸せをいつでも願っている。 間違った道を歩みそうになったら、それこそ全力で命懸けで引き戻す。 間違った道……果たして彼らの関係はそうなんだろうか。 目の前の2人は、まるで小さな雛(弘毅)を守る大鷲(赤石さん)のようで。 例え大嵐が来ても、逞しい大鷲はどんなことがあっても雛を守り続けるだろう。 「弘毅。」 弘毅がびくりと身体を震わせた。 「2人とも顔を上げて。もう土下座なんていいから、ソファーに座って。 さっきは怒鳴っつけてごめん。 ひょっとしたら、なんて思ってたことがビンゴで当たってパニクっちゃった。 言い過ぎた。ごめん。 弘毅、弘毅はどう思っているの?あなたの気持ちをちゃんと聞かせて。」 「母さん…」 弘毅は泣いていた。 母さん、アンタのそんな顔見に来たんと違うんよ。 「…俺、俺はひとりの人間として、達也さんを心から愛しています。 他の人からどんな非難や中傷を受けても、俺の気持ちは変わることはない。 一生をこのひと(達也さん)と一緒に生きていきたい。 母さん達にとって俺の存在が疎ましい、認めることができないのなら絶縁してもらっても構わない。 不義理な息子で本当にごめんなさい。 でも、俺は家族を捨ててでもこのひとと幸せになりたいんです。」 弘毅はそう言ってまた頭を下げた。

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