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対峙(6)
私は『絶縁』という言葉に衝撃を受けた。
瞬間、私達の言うことを素直に聞いていた幼い頃の弘毅の姿が目の前にスライドのように流れていく。
かわいくてかわいくて、家族みんなで手を掛けて育ててきた子。
その愛しい子が、愛する自分の男 のために家族を捨ててもいいとまで言っている。
私は縋るように姉さんの方を向いた。
そう言えば、いつも正論で論破する姉さんが静かに耳を傾けている。
いつもと違うその様子に、姉さんは真剣に考えてくれてる、やはりこれはただ事ではないのだと実感した。
「弘毅。」
それまで黙っていた姉さんが口を開いた。
「何もかも捨ててもいい、そう思う程にこの人のことを大切に思っているんやね。」
「はい。」
「赤石さんもそうなんやね?」
「はい。でも私は弘毅には家族を捨てるようなことはしてほしくない、時間が掛かっても許していただけるように何度でも足を運ぶつもりでいます。」
「そう、分かった。
加奈子。」
「………」
「この子ら、真剣やわ。
もう、心と心でしっかりと結び付いとる。
私は、今まで仕事もプライベートも、いろんな人達と関わりを持ってきた。性別も国籍も、勿論性格もみーんな違う。
駆け引きしたり騙されたり。
年取った分だけ経験値はある。
そやから、人を見る目はあるつもりなんよ。
この人…赤石さんは嘘をつくような人やないわ。
それに…本気や。本気でひとりの人間として弘毅のことを愛してくれとる。
弘毅、簡単に『絶縁』なんて言葉は使うたらいかん。
この人と幸せになりたいんやったら、二度と言うたらいかん。
許してくれるまで足を運ぶと言ってくれる、赤石さんに対しても失礼やよ?
人ん家 のことに口出しすんな、って言われるかもしれんけど、私はこの子らのこと応援するわ!」
「姉さんっ!」「おばさんっ!」
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