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対峙(12)

side:赤石 「…行ってしまわれたな。」 「はい…達也さん、本当に許してもらえたんですよね?」 「あぁ。ホッとして今頃手が震えてきてる。 笑えるな、今まで何度となく修羅場をくぐってきてるというのに。 これしきのことで情けないよ。 おばさんのお陰でお母さんも許して下さったんだな。あの後押しがなければ、今頃は……… 根回ししてくれた勝義達にも、本当に感謝してる。 後で連絡しておかないと。きっと心配してるだろうから。 でも…本当に良かった……後はお父さんの許しをいただけるように何度でも足を運ぶよ。 弘毅、お前も気を張って疲れただろう。」 「俺は大丈夫です! 達也さん、本当にありがとうございました。 それと、母が酷いことを言って申し訳ありませんでした。」 「そんなこと、全然気にしてない。 言われて当然だから。 弘毅………」 「はい。」 「早く帰ろう。さっきから弘毅を抱きしめたくてうずうずしてるんだ。」 「………………」 「嫌か?」 「…嫌じゃありません……俺もそう思ってたから。」 俺は弘毅の腕を掴むと助手席にそっと押し込めドアを閉めた。 俺の逸る心を代弁するようなエンジン音が唸りを上げる。 ギアをドライブに入れてしまうと、俺は弘毅の右手を持ち上げ、自分の太腿に押し付けた。 一瞬、戸惑いの空気を纏った弘毅だったが、黙って俺のしたいようにさせてくれていた。 押し付けられる手の平が、じわりと熱を帯びる。 重ね合ったそこから弘毅の中へ入り込んでいくような幻覚に、俺は相当コイツに惚れているんだと、再認識させられる。 早く抱き合いたい 一刻も早くあの温かな肉筒に包まれたい 一つに溶け合うようなあの時間を共有したい 愛して愛されて…共に果てるあの瞬間を… そんなことばかりが頭を巡っている。

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