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難関突破!?(3)
宣言通り、達也さんは「お先!」と言い放ち席を立つと、チラリと俺を見た。
俺も慌てて立ち上がった。
「すみません!今日は私用のため上がらせて下さい!」
係長がによによと笑っていたのが目の端に映ったけど、声を掛けたら揶揄われそうで「お先に失礼します。」とだけ告げ、俺も鞄を引っ掴み、後を追うようにしてエレベーターへ向かった。
密閉された箱の中で、さりげなく隅っこに移動して身を寄せ合うようにして並んだ。
「このひとが俺の大切なひとなんです!」
って叫びたい。
こんな素敵な人が俺の恋人なんだと声を大にして言いたい。
……さっきから、頬を染めてちらちらと達也さんを見つめる女性達。
こちらを見つめてはこそこそと内緒話をしている。
何だか嫌な予感。
あんまり見ないでほしい。その視線、達也さんが吸い取られそうだ。
ふと、さっきより距離が詰まったような気がして隣を見ると、後ろ手で手をそっと握られた。
こっ、こんな所で!?
誰かに見られたらどうすんの!?
達也さんは知らん顔して前を向いている。
重ねられた手と身体がじわりと熱を帯びていく。
到着のベルと同時に、その熱が離れて行った。
エレベーターを先に降りた、さっきの女性陣が俺達を待ち構えていた。
達也さんは俺だけに聞こえる声で囁いた。
「面倒だから先に行ってろ。」
背後から語尾を伸ばした甘ったるい声が聞こえる。
そっと柱の影に隠れた。
「あのぉ〜、赤石部長ぉ〜」
「はい、何でしょう。」
「定時上がりなんてお珍しいですねぇ。
私達これからご飯食べに行くんですけどぉ、ご一緒しませんかぁ?」
出た!
ハイエナ!
達也さんは、一瞬右の口角を上げた。
「せっかくのお誘い申し訳ないけれど、今日は大事な夫 とのデートなんだ。
じゃ、失礼。」
返答する隙も与えず笑顔でバッサリ断り、指輪の煌く左手をひらひら振って歩いてくる。
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