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難関突破!(4)
父さんの背中が小さく見える。
こんなに小さかったっけ?
小さい頃、よくおぶってもらったし、座ってる父さんの背中に抱きついてはふざけていたのに。
その頃には父親の存在は大きくて、大きくなったらこんな風になりたいなんて思っていた。
それが、久し振りに見た父さんの背中は吃驚するくらいに小さかった。
「…父さん…」
呼んでも相変わらずこっちを向いてくれない。
それでも精一杯話し掛ける。
「父さん、俺達のこと許してくれてありがとう。父さんの望むような結婚ができなくてごめんなさい。
でも、俺は達也さんと出会えて、本当に幸せなんだ。今も、これからも。
だから結婚式も」
「弘毅」
突然話を遮られた。
どうしよう、叱られる!?
「…どうしようもなくなったら。
アイツとはやっていけないと少しでも、少しでも思うことがあったら。
遠慮なんかせずにここに帰ってこい。周り近所のことは気にするな。
いいな?」
「…父さん…」
「式には出てやる。
日にちはお前達で決めろ。
どうせ俺抜きで話が盛り上がってるんだろ?
決まったら母さんに伝えておいてくれ。
俺はもう寝る。」
そう言うと、布団を被って隠れてしまった。
俺はその背中にダイブした。
「父さんっ!」「ぐえっ」
「…父さん、ありがとう……俺、絶対幸せになるから…心配しないで……ありがとう…」
涙が零れ落ちる。
ふと、しがみ付いた背中が微かに震えているのに気付いた。
父さん…泣いてる!?
布団でくぐもっているが、噛み殺した嗚咽も聞こえる。
父さん、父さんっ…ごめん、ありがとう…
俺は、父さんが泣くのを初めて目の当たりにしながら、暫く背中にしがみ付いていた。
親を泣かせてまで俺だけが幸せになろうとしている…それは正しいことなんだろうか。
迷いが頭をよぎったその時、達也さんの優しい笑顔が浮かんだ。
そうだ!この笑顔を信じて歩いていけばいいんだ!
父さん、俺達が幸せになることが恩返しだよね?
俺達2人の静かな嗚咽が、部屋の空気をそっと包み込んでいた。
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