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難関突破!(8)
その時、遠慮がちなウェイターの声がした。
「…失礼いたします、お待たせいたしました。」
「あぁ、ありがとう。
ほら、達也君、頭を上げて。
マティーニはこちら、ノンアルはこちら……」
おじさんが仕切ってウェイターに伝えている。
達也さんはゆっくりと頭を上げ、おじさん達に軽く会釈すると俺を見た。
「弘毅。」
「はっ、はいっ。」
「何度でも伝えるから何度でも聞いてくれ。」
俺が頷くと、す、と耳元に口を寄せた。
「愛してる。一生側にいてくれ。」
唇を寄せられた所から、熱が一気に全身に広がっていく。
目眩がする。心臓はバクバク跳ねている。
思わず達也さんの顔を見た。
至近距離で危うく皆んなの前でキスしそうになり、慌てて距離を取った。
「返事は?」
「…はい。」
破顔した達也さんは俺の頭をぽんぽんと叩くと、嬉しそうに言った。
「末長くよろしくな!」
俺はただ、何度も頷くことしかできなかった。
宣言通りおじさんは、おばさんを大兄ちゃんに託して、俺達の側に陣取った。
必然的に小兄ちゃんも引き摺られておばさん側に連れて行かれた。
おじさんは真面目な顔で
「大切な甥っ子を託すんだ。色々聞くけど気を悪くしないでくれ。」
と前置きした上で、達也さんの仕事内容から始まり、家庭環境や生い立ちなんかを(俺も知らなかったこともあった)、雑談を交えながら相槌を打ち詳しく聞いていった。
余りに突っ込んだ質問もあったが、達也さんは何ひとつ隠すことなく、全てを話してくれた。
気を悪くしてないだろうか。
少し心配になり、達也さんの顔色を伺うが、その度に『大丈夫』というように軽く頷いては頭を撫でられる。
「弘毅、心配いらない。そんな顔するな。
おじさん達が心配する気持ちは痛いほど分かる。
どんなに取り繕っても、嘘はいつかバレる。
俺はそんなことしたくないし、するつもりも毛頭ない。
俺という人間を洗いざらい知っててもらいたいんだ。」
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