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挙式へ(1)
それからの俺達は、仕事をこなしつつ結婚式の段取りもしつつ、それなりに忙しい日を送っていた。
充実した日々。
仕事をこなしてくたびれて帰っても、達也さんと過ごす時間が俺を癒してくれる。
以前は、大好きな達也さんと一緒にいても、何処か不安な心許ない、自分達を否定するような思いが拭い切れなかった。
けれど、今はもうそんな背徳感は消えてしまった。俺の家族に認めてもらったことが大きな安心感を生んでいる。
達也さんの実家には、うちから帰ってすぐに、俺の父親の了承を得た報告と結婚式の出席のお願いに伺った。
お義父さんは『こうしちゃいられないよ』と有給休暇の申請に走り、お義母さんは涙ぐんで喜んでくれた。
既に難なく受け入れてもらっていた俺は、何の心配も要らなかった。
こんなに幸せでいいんだろうか。
何か落とし穴があるようで怖くて堪らない。
そんな俺の不安をかき消すように、達也さんが『愛してる』と魔法の言葉をくれる。
それだけで俺のナーバスな心が何処かへ飛んでいってしまって、いつもの俺に戻るんだ。
余り仰々しいことは苦手だし、大手を振って世間様に知らしめるのは…ということで、挙式は内々で、と決まった。
「社長がさ、『どうしても参加する!』って聞かないんだよ。」
「え、社長!?どうして!?」
「『社を代表して当然だろ』って。
まぁ、あそこん家もそうだから、同じ境遇のカップルが気になるんだろ。」
「えぇぇぇ――っっ!?お相手はっ!?」
「今はまだ内緒だぞ、秘書殿だよ。“西に黄色”の檸檬秘書。
社長室で何やってんだか…あ、おい、弘毅、大丈夫か?」
「あ、ちょっと目眩が…うちのトップが…あの西山君と……嘘だ……」
達也さんに抱きとめられてソファーに座らされた。
「くくくっ、毎日見せつけられてる黒原君は気の毒だな。」
知らなかった…そうなんだ…
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