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挙式へ(9)

少し曇っていた空が次第に明るくなってきた。 俺達が式場に着く頃には、朝の曇天が嘘のような青空が広がっていた。 つい先日までのモヤモヤとした気分を振り払った俺の心は、今日の青空のように澄み切っていた。 それはあの日…達也さんが俺を抱きながら、繰り返し繰り返し真摯に伝えてくれた言葉のお陰。 『弘毅は弘毅だ。何も繕う必要はない。 そのままでいいんだ。』 『俺は若林弘毅という人間を愛してるんだ。 だから何があっても心配するな』 『弘毅、今のままでいてくれ』 達也さんは、俺という人間の存在を認めてくれている。 男であっても、子孫を残せなくても、俺であればそれでいいと。 もう、自分を否定して卑下するのは止めた。 俺を大切にするということは、俺を認めてくれている達也さんを大切にするということ。 俺は、こんな素晴らしいひとと出会えて結ばれて、本当に幸せだ。 そんな思いを噛み締めていると、最愛の伴侶となるひとに背後から抱きしめられた。 「ぼんやりしてどうした? 俺達を祝福するような最高の天気になったぞ! 雨の後は必ず晴れる…ここに来るまでに色々あったけど、それも全てお前と結ばれるための試練だったと思えば、それすらも感謝できる。 弘毅、必ず幸せにする。一緒に幸せになろうな!」 「達也さん…はいっ!」 顎を取られてそっと唇を重ね合った。 窓に差し込む優しい光にも祝福されるようで、俺はふわふわとした夢見心地でいた。 ちゅ、と大きなリップ音を残して離れていく熱を少し残念に思いながら、準備された式服に袖を通す。 俺は自分で着替えたかったのに、達也さんがあれこれと子供にするように世話を焼くので、呆れた挙句にしたいようにさせた。 2人で選んだそれは対の白いフロックコート。 選ぶのに立ち会ってくれたスタッフさんは勿論、遥さんにも絶賛された。

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