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挙式へ(11)

父さんは一瞬、何ともいえない顔をした。 が、達也さんから俺の手を黙って受け取った。 達也さんは気にも留めず深々と一礼すると、もう一度 「お義父さん、よろしくお願いいたします。 弘毅、中で待ってる。」 と、言い残してドアの向こうに消えて行った。 2人残された父さんと俺は、ひと言も発せず、その場に立っていた。 こうして手を繋ぐのなんて、小学校の運動会以来じゃないだろうか。 親子競争に参加した父さんは大ハッスルで、翌日筋肉痛で唸りながら仕事に行ったっけ。 ぼんやりと思い出に耽っていると、突然名前を呼ばれた。 「弘毅。」 驚いて父さんを見た。 父さんは真っ直ぐに前を向いたまま、俺の方を見ようともしない。 そして、ひと言ひと言区切るように言った。 「弘毅、もう一度だけ、言う。 アイツと、上手くいかなくなったら、その時は、家に、帰って来い。 いいな。」 俺は胸が詰まり答えることができずに、ただ父さんの横顔を見つめていた。 父さんの手の平に乗せた俺の手に、微かな震えが伝わってくる。 ずっ、と鼻を啜った父さんは、前を向いたまま 「辛かったら帰って来い。」 そう言って黙ってしまった。 重苦しい空気を一掃するように、小鳥の軽やかな囀りが聞こえてくる。 じわりと湧いてきた涙を堪えようと窓を見上げると、抜けるように晴れ渡る青空が見えた。 俺は、ぐいと、目元を拭うと 「父さん、ありがとう。」 同性婚をした俺達に、今後降り掛かるであろう様々な困難な出来事と、それらに対して俺が耐えられないくらいの思いをするだろう、と父さんは踏んでいるのだろう。 幾つになっても子供は子供なんだね。 でも、心配いらないよ。 父さんの心配も不安も、全部達也さんと乗り越えて行く。 俺は父さんに宣言するように言った。 「父さん、俺達は2人で越えて行くから大丈夫。見守っていてね。」 微かに頷く横顔が少しボヤけて見えた。

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