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幸せのステップ(8)

改めて達也さんの気持ちを第三者から言われたら、何だか面映くて。 それにそんな“ガード”をしていたなんて。 全く気付かなかった。やっぱり“そういうこと”に鈍いんだろうか。 俺って『達也さん包囲網』で外堀埋められて、最終的に捕まっちゃったんだな。 計画的犯行。 「いや、その、えーっと…」 なんて口籠もりながら、電車の窓ガラスに映る自分の顔を見ていた。 弘毅、幸せそうな顔してるね。 卵焼きから始まった俺達。 憧れがいつしか恋に変わり、気付けば達也さんの愛に絡め取られていた。 達也さんの思い通りに。 一時は反対されたけど、俺の家族にも理解してもらっている。 今は応援されてるし、達也さんは1人増えた我が家の息子みたいな扱いを受けている。 勿論、達也さんのご家族にも手放しで歓待されている。 特にお義母さんに。 色眼鏡で見ないで達也さんのパートナーで『私の息子』と呼んでくれる。 嬉しい。これは素直に嬉しい。 だから俺も甘えさせてもらってる。時々達也さんがヤキモチを焼くんだけど。 ふと、吊り革を持つ左手の煌めきが目に入った。 俺達を結び付ける証。いつも達也さんに包まれてる感じがして擽ったい。 今朝から大騒動になったけど、結果良かったと思う。 他人は、俺の相手は誰か分からないけれどそれでいい。 きっと、係長もこんな思いをされたんだろうな。 「ん?俺の顔に何かついてる?」 「えっ!?いえ、何でもないです! あの…係長もお幸せそうだな、って思って…」」 「ははっ!君達も負けてないよ! で、今日の晩ご飯は何にするの?」 「そうですね…野菜が残ってるので、具沢山のシチューにでもしようかな、って思ってます。」 「あぁ、いいね。うちもそうしよう! きっとお腹を空かせて走って帰ってくるぞ。」 くふん、と笑う係長はとても幸せそうに見えた。

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