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幸せのステップ(9)
くっくっと笑う係長の薬指にも、きらりと煌めくものが…
「くっくっ……若林君、今日はヤケに俺のこと見てるけど…ひょっとして惚れた?」
「まっ、まさかっ!そんなことある訳ないでしょっ!?」
「あははっ、冗談だよ、冗談。
その反応、揶揄い甲斐があるねぇ。
あ、アイツにバレたら逆襲される。
黙っててね。」
「…告げ口しましょうか…」
「いや、それだけは止めて!
残業増やされるっ!」
あははっ
そんなやり取りをしているうちに、最寄駅についた。
係長は俺が「ここでいいですっ!」と固辞するのも構わず、きっちり家まで送り届けてくれた。
「…で、LINE送信、っと…うへぇ、もう既読がついた。
何々…『ありがとう。纏めて埋め合わせする。』だって!
何おねだりしようかな…ふふっ、考えとこーっと。
じゃあ赤石君、明日家出る前と、下に着いたら電話するね。お疲れ様!」
ひらひらと手を振った係長は、足取りも軽く去って行った。
達也さん、俺を送り届けたら報告しろ、って係長に厳命してたんだな。
全くもう、どこまで過保護なんだ!?
俺は、立派な成人男子ですからねっ!
…それに甘んじてる俺も俺なんだけど…
そんな過保護も束縛も、今の俺には愛情のスパイスにしかならない。
あぁ…自分でも呆れるけど、完全にお花畑脳だ。
ダメだダメだ。甘えてちゃダメだ。
でも…そこまで大切にされてる、って思ったらゾクゾクする。
俺っておかしいんだろうか?
うんうん唸りながら着替えを済ませて、晩ご飯の支度に取り掛かる。
きっと今日も、達也さんのお弁当箱は空っぽ。
一緒に暮らし始めてからは、ラブレターみたいなメモはなくなったけど、大切に取ってある。
今はメモの代わりに、帰宅後感想とキスが送られる。
最初は恥ずかし過ぎて逃げていたけれど、それにも随分慣れた。
慣れ、って怖いもんだ。
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