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幸せのステップ(10)

野菜を煮込みながら、俺、今すごく幸せだな、ってぼんやりと考えていた。 運命の悪戯か、達也さんと俺は巡り合ってしまって、思いを寄せ合い一生を共に過ごすことになった。 同じ鍋で作った物を一緒に食べ、同じテレビを見て大笑いしたり憤ったりする。 同じ匂いの洗剤で洗ったシャツを着て、同じ匂いのボディソープやシャンプーに包まれている。 今でも目が合うとドキドキするんだ。思春期の若者のように。 そっと触れる手の温もりに安心する。 同じベッドでひとつになり肌を重ね合う。 息をするように『愛してる』と言い合って、見つめ合ってキスを交わす。 そんな毎日を過ごして、いつしか側にいるのが当たり前になって、幾つになっても手を繋いでいたい。 ずっとずっと、達也さんに恋していたい。 どちらが先に天に召されるか分からないけれど、俺の愛するひとは達也さんだけだと胸を張って言いたい。 人それぞれに価値観も違うし環境も違うし、幸せの度合いなんて計り知れない。 でも、俺は達也さんと出会えて…… そんなことを考えていたら、感極まって涙が溢れてきた。 俺…情緒不安定なんだろうか。 ピンポーン いけない!達也さんだ! 慌ててごしごしと目元を拭って「お帰りなさい」と告げてロックを解除した。 「ただいま!…弘毅、何かあったのか?」 俺を見た瞬間、達也さんに詰問された。 「あ…違うんです…俺って幸せだな、ずっと達也さんに恋していたいな、って考えてたら、つい…」 ついつい零れ落ちた涙をそっと拭い取ると、ぎゅ、と抱きしめられた。 「俺も…弘毅を愛して愛されて…幸せだよ… 俺を選んでくれてありがとう…これまでもこれからも、ずっと一緒だ。 ジジイになっても俺のことを捨てるなよ!? 弘毅といるだけで、初めてのデートの日みたいにドキドキするんだ。 おかしいだろ? でも、そのドキドキがワクワクになっていつの間にか安らぎに変わる。 心穏やかに過ごせるんだ。」

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