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幸せのステップ(11)

達也さんもそう思っててくれたんだ! メッチャ嬉しい! 嬉しくってまた、じわりと涙が滲んできた。 俺は乙女かっ!? それを隠すように、達也さんの胸に擦り付いて誤魔化そうとした。 「弘毅。」 顎を持ち上げられて、潤んだ瞳を見つめられる。 相変わらずの端正な綺麗な顔が、涙でぼやけて見える。 重ねられた唇は少し冷たくて、まだ外気を孕んでいた。 達也さんと俺の体温が交わされて…舌先で『口を開けろ』とノックされ、請われるままに少し開くと、ぬるりと滑り込んできた。 「ん、まっ、んっ」 両頬を固定され、散々に嬲られる。 頭もぼぉっとしてきて、キスだけで躾けられたこの身体を恥ずかしくも愛おしく感じる。 達也さんだけの、達也さんのための俺。 縋り付くように胸元の襟を握りしめて、その熱い愛撫に必死で応えようとするけれど、気持ち良過ぎて上手く舌が動かない。 ふと、鍋がゴボゴボと沸騰する音が耳に入ってきた。 いけない。吹きこぼれる! 達也さんの胸元を叩いて『離して』とアピールしたら、そっと離れてくれた。 「すまない、ついつい…苦しかったか?」 俺は大きく息を吐きながらも慌てて首を振り 「鍋が…火を掛けっ放しで…」 レンジを見た達也さんは、目で俺を制すると手を伸ばし、スイッチを消してくれた。 「今日は何作ってくれてるの?」 「具沢山のシチューです。野菜たっぷりですよ。」 ちゅ、と大きなリップ音を響かせた達也さんは 「腹が減っては何とやら、だな。 美味いシチューを食べさせてもらって、その後は弘毅もたっぷりといただくとするか。」 「なっ!?」 「あははっ!風呂に入ってくる。」 もう一度キスを残すと、笑いながらバスルームに行ってしまった。 はぁ…流されちゃう。嫌じゃないから困る。 涙も引っ込んじゃった。 明日も仕事だから“”のはちょっと勘弁してほしい。 でも…喜びを感じる俺がいる。

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