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幸せのステップ(12)

目の前には空っぽになった皿と、満足気にお腹を摩る達也さんがいる。 「ご馳走様!弘毅、今日も美味かったよ。 弁当の卵焼きも安定の美味さだった! いつも俺の身体を気遣ってくれてありがとうな。 食べ過ぎた……マズい、腹が出る…… こうなったら後は、弘毅と一緒にを」 「おっ、俺っ、片付けしなきゃ! 明日から暫く係長が迎えに来てくれるし、少し早く起きなきゃいけないしっ!」 達也さんの言葉を遮り早口で捲し立てると、食器を重ねてキッチンに逃げ込んだ。 『食後の運動』って、ひょっとしてひょっとするよね!? いやいやいや、平日は、翌日が辛いですって! 青くなるやら赤くなるやら、変な汗が出る。 残りの食器を運んできた達也さんに、後ろから抱きしめられた。 びくっ 「弘毅…俺は“一緒に腹筋でもしようか”って思ってたんだけどな。 …なーんか違うこと考えてた?」 「いえっ、その、あのっ、えーっと」 「それじゃあご期待に沿わないと悪いよなぁ(笑)」 笑いを含んだ吐息混じりの言葉が、首筋を這う。 「んっ」 「ここは俺が片付けるから、風呂に入っておいで。」 きゅ、と頸に吸い付かれた。 ヤバい、そこ見えちゃう!? くるんと振り向いて咎めるような目で見上げたら、悪戯が見つかった子供みたいな顔をしていた。 「もう!達也さんっ!コレ誰かに見つかったらどうするんですかっ!?」 「くくくっ。『若林のヨメはかなりの情熱タイプらしいぞ』って言っといてやるよ。」 うぐぐっ、と唸る俺の頬を面白そうに撫でた達也さんは 「ごめんごめん。揶揄い過ぎたな、許せ。 弘毅があまりにかわいくって歯止めが効かない。 今日も一日頑張ったんだ。早く風呂に入って疲れを取っておいで。 ここは俺が片付けておくから。」 ほら、と背中を押されキッチンから追い出された。

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