272 / 280

幸せのステップ(14)

くちゅっ、ぬちゅ 「…はぁ…」 堪えていた吐息が、口の端から零れ落ちていく。 もうすっかり自分で準備することも覚えた。 それは今でも羞恥を伴う行為だけれど、“彼”を受け入れる儀式のようなものだと自覚してからは、丁寧にしっかりと行うようにしている。 シャワーヘッドを横にずらすと、髪の毛の雫が滴り落ちて頬に当たった。 壁に散ったお湯がミスト状に霧散して、たちまちバスルームが白く煙っていく。 自分の指だけで感じそうになるのを我慢して、何とか洗い終えた。 はっはっと、短い呼吸を繰り返し息を整えた後は、今から愛されるであろうこの身体を残すところなく洗い上げる。 この身体はいつまで愛してもらえるのか。 いつまで一緒にいられるのか。 幸せだからこそ怖い。失った時のことを考えると。 時々浮上するマイナスの思いを首を振って追いやった。 愛している、愛されている。 離れない、離さない。 呪文のように繰り返しながら、湯船に清めた身体を沈めた。 ガチャッ 「おーい、弘毅!?大丈夫か!?」 「え!?達也さん、どうして?」 「お前が長いこと出てこないから、寝落ちしてるんじゃないかと心配になって…逆上せるぞ、早く出ておいで。」 「はい、大丈夫です。ちょっとぼぉっとしちゃってて。」 「水持ってきてやる。歩けるか?」 「大丈夫です!」 達也さんは心配そうに俺を見ていたが、頷くとキッチンへ向かったようだった。 俺は慌てて浴槽から上がると、バスタオルであちこち拭った。 「弘毅、取り敢えずこれ飲め。」 「すみません、ありがとうございます。」 逆上せる寸前だったのか、3分の2くらいを一気飲みして大きく息を吐いた。 達也さんはバスタオルで俺を包み、椅子に座らせると頭をガシガシ拭き始めた。 「達也さんっ!?」 「じっとしてろ。」 大きな手でわしわしと拭き取られていく。 気持ちイイ…

ともだちにシェアしよう!