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幸せのステップ(15)
そして無言で優しくドライヤーを当てられる。
髪の毛に差し込まれるゴツゴツした指の感触が気持ちいい。
俺はうっとりと目を閉じて身体を預けていた。
「さ、いいぞ。
…揶揄い過ぎたな、弘毅、ごめんな。」
「え!?」
達也さんは俺を横抱きにすると、ベッドに連れて行ってくれた。
「実は今日…お前の結婚相手は誰だ、どんな人なんだとか色々、他部署の女性に質問責めにあってな…
どうやらお前に目を付けてアタックしようとしてたらしい。
『俺の弘毅に手を出そうとするな!
弘毅の相手はこの俺だっ!』
って喉元まで出かかったんだけどさ。
それは流石に言えなくて。
横を通り抜けたお前をその2人の視線が追っていくんだ。
相当向かっ腹が立って仕方がなかったんだけど、仕事に集中してたからさっきまで忘れてたんだよ。
ところがお前のかわいい顔見てたら思い出しちゃってさ。
お前が悪い訳じゃないのに、かわいさあまってついついお前を虐めちゃった、って訳。
大人気ないよな、俺も。お前のことになると、どうも歯止めが効かなくなる…」
照れ臭そうに笑う達也さん。
あ…あの時の……あれは達也さんを狙ってたんじゃなくて…俺!?
くっくっくっ……あははっ!!
「弘毅?」
いきなり笑い出した俺を達也さんは訝しそうに見ていた。
「くっくっくっ……はぁ、ごめんなさい…
その場面俺、通りすがりに見てたんです。
『俺の達也さんに色目を使うな!』
って思いながら。
俺もその女性達に腹が立って腹が立って…でも忙しくて忘れちゃってて。
今、お風呂に入りながらそれを思い出してしまって……俺、いつまで達也さんに愛してもらえるんだろう、離れたくない、離さない…なんて考えてたら……」
「弘毅……」
「あの時、俺達似たようなこと思ってたんですね。」
「弘毅!」
逞しい腕に抱きとめられた。
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