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第17話

翌日――銀嶺はいつもよりも若干きっちりとした服装をした。仕事帰り、相模の職場へ寄って関係者に会い、彼の勤務が一体どういうことになっているのか問い質そうと思っているのだ。 相模は自分の雇用条件に関して何も教えられていない。理不尽に扱われても、それが当たり前だと思ってしまっている。革命政府がせっかく自分達を守る決まりを色々と整備してくれているのだ。同じ人造生命体として、この状態を放っておく事はできない。 夕方作業所へ行くと相模はまた何か大きな機械の解体作業をしていた。 辺りにはやかましい音が鳴り響いて、相模が銀嶺に気付く様子はない。銀嶺は声はかけずにそのまま通り過ぎ、事務所らしい建物へ近付いた。 入り口のドアをノックして開けた。中には、先日見た三人の作業員がいた。中の一人が声をかける。 「なんだい?何か用?」 「こちらで働いている人造兵の方の雇用条件についてお尋ねしたい事があります。責任者の方は?」 銀嶺は言った。 「人造兵?ああ、あの新人か」 事務所の奥に置かれたデスクの前に座っていた男が答えた。 「あれは革命軍の役所から頼まれて預かってやってるだけだ。雇用条件云々言う資格なんかないよ」 「どういうことでしょうか?」 銀嶺は尋ねた。 「休憩を与えなかったり、休みを与えなかったりっていう事を、革命軍が全て承知しているという事ですか?」 男が露骨に忌々しそうな顔をする。 「あんた、あいつのなんなんだ?まさか弁護士とかか?」 「いえ、友人です。そうですか――では、革命軍の担当機関に問い合わせてみます。見習い期間中としても今の条件はおかしすぎると思うので」 言い捨てて銀嶺は、事務所から出ようと向きを変えた。作業員の一人が座っていたソファから立ち上がり、銀嶺に近付いて来る。 「待ちなよ兄ちゃん――ん?姉ちゃんか?どっちだい?」 無視してドアノブに手をかけようとした銀嶺の手首を、その作業員は掴んで押しとどめた。 「おい、待て。余計なことするんじゃねえよ――本人が承知してるんだから」 「いい加減な事言わないでください。相模さんは何も知らされていないだけです。利用しないでください」 「あいつはな、所長が仕方なく雇ってやってるんだ。人造兵なんてどうせロクなもんじゃないんだから、あの位が妥当なんだよ」 ろくなもんじゃないだって?思わず頭に血が上った。 「妥当!?あれだけこきつかってて何言ってるんですか!彼は少なくとも、あなたより役に立ってるはずです!」 「なんだと――!?」 手首を掴んだ作業員の手に力が篭り、銀嶺は痛みで顔を歪めた――気の荒そうな男だ。余計な事を言って怒らせたのはまずかったかもしれない。 「放して下さい!」 作業員の腕をどうにか振り解こうともがいた拍子に、被っていた帽子が脱げかかり、隠していた耳の片方が飛び出した。 「なんだ!こいつ、ネコじゃねえかよ!」 作業員が愉快そうに言い、空いたほうの手で銀嶺の帽子を攫った。 「ちょっと!なにするんですか!?」 抗議した銀嶺を、作業員は事務所の中央へ引っ張って行く。 「なんなんですか!?放してくださ――」 作業員は銀嶺の両肩を押さえつけ、無理やりそこにあるソファに座らせる。 「ネコが生意気に人間様に抗議しに来るとはなあ――情けない世の中になったもんだ」 銀嶺に被さるようにして作業員は言った。掴まれた両肩に男の指が食い込んだ。昔祭りの行列に投げ込まれた時の痛みと恐怖を思い出す―― 「俺さあ、ネコ遊びが廃止になって、つまらない思いをしてるんだよね……オンナ抱くのとはまた違った良さがあったから――」 ソファの上に押し倒され、銀嶺はもがいた。 「何す――放せッ!」 「それが全力かい?可愛いもんだ――」 耳に息を吹きかけられ、ぞっとして尾の毛が逆立った。しまった、自分だけで来るべきではなかった―― 「ちょ……そこの人!見てないで、この人止めてくださ――」 事務所内にいる後の二人の作業員に向かって銀嶺が訴えると、その内の一人が近付いてきた。止めてくれるのかとほっとしかかったのに、彼は銀嶺の両腕を頭の上に纏め、押さえつけてしまう。 「革命軍のせいで色々と勘違いしてる輩が増えて困る。ここらでちゃんと、躾しなおしておかないとダメだよな……」 銀嶺は青褪めた。作業員は二人がかりで銀嶺をソファに押さえつけ、服を脱がしにかかっている。パンツが押し下げられて下腹部が剥き出しにされ、シャツが胸まで捲り上げられた。 「両性タイプかい?」 デスクの所で見物している男が訊ねる。銀嶺を押さえている作業員が、両脚の間に乱暴に手を突っ込んで確認し 「違うようだな、安物だ」 と答えた。悔しいのと恐ろしいのとで涙が滲む。 「やめ――やめろってば!助けて!相模さ――」 必死に叫んだ銀嶺の口を作業員が手で塞ぐ。銀嶺はその手に噛み付いた。 「イテ!こいつ――!」 作業員は、噛まれたその手で銀嶺の顔を殴りつけた。殴られた部分がカッと熱くなる――ダメだ、とても逃げられない―― その時いきなり、事務所のドアが開けられた。 「あんたら一体――何やって――」 そこにいたのは相模だった。作業員達がそちらを向いたと同時――相模の身体が動いた。 その直後――銀嶺の腕を押さえつけていた作業員の身体が壁際まで弾き飛ばされた。銀嶺がソファの上に起き直った時、相模はもう一人の作業員の襟首を取って床に押し付け、拳で彼の顔を上から殴りつけようとしている所だった。 銀嶺はハッとした。人造兵は人間よりも遥かに力が強い―― 「相模さんダメですッ!あなたの力で殴っては――」 殺してしまう――。銀嶺が必死に叫んだ時、相模の拳は作業員の顔を僅かに逸れ、コンクリートの床を激しく叩いた。拳は床に深くめり込み、破片が辺りに飛び散った。 「相模さん!」 銀嶺は脱がされかかっていた服を引き上げ、相模に駆け寄った。 相模に押し倒された作業員は床の上で放心している。一方相模も――その作業員に馬乗りの姿勢のまま、こわばったようになって動かなかった。銀嶺は、相模の肩にしがみついた。 「相模さん!大丈夫ですか!?」 相模は答えず、唖然とした表情で自分の両手を見つめている。 「相模さん!?どうしたんですか!?しっかりして――」 叫んだ銀嶺の耳に、遠くからパトカーのサイレン音が響いてくるのが聞こえた――

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