18 / 86

第18話

「やけにサイレンがうるさいな――」 厨房でフライパンを振っていた晋は、窓の外に目をやって呟いた。その時、店の入り口が開けられる音がし、誰かが怒鳴るのが聞こえた。 「経過監察体一号!速やかにこちらへ出て来い!」 晋の隣で卵をかき混ぜていた天城の手が止まった。 「なっ――なんだよ!?」 晋は厨房の入り口から顔を出し、店を覗いた。ドアの側に立ち尽くしているノアの前に、武装した兵が数人、小銃を構えて立っている。店内にいた客は皆青褪め、兵たちを見つめていた。 「ノアこっち来い!――オイ手前ェら!ここは俺の店だぞ!物騒な物振り回すんじゃねえ!」 晋は大股で店に出、自分の背後にノアを押しやりながら言った。 「責任者の方ですか?革命軍から、政府軍人造兵の回収令が出されました。直ちに引き渡していただきたい」 先頭の兵が言った。 「なんだって?回収令?」 晋は目を吊り上げた。 「ふざけんな!天城は問題なんか何も起こしてねえぞ!」 「問題を起こしたのは、一号ではなく三号です。しかし規定で三体全て、同時回収する事になっています」 「なんだそりゃ!?そんな訳のわからねえ規定があるかい!」 頭にきて、晋は手にしていた木べらを振りかざし叫んだ。 「うちの従業員勝手に連れてったりなんかさせるもんか!どうしてもって言うんなら、俺を倒してから行きやがれッ!」 「従っていただけないと、公務執行妨害で逮捕させてもらいますよ」 兵は脅すように言った。見ると、彼らの後ろに警官も来ている。 「この俺がそんな脅しで怖気づくとでも思ってるのか!?舐めんな!」 わめいた晋の後ろから、天城が声をかけた。 「店長――どいてください」 「お前は厨房入ってろ!仕事中だろ!」 「ありがとう店長――」 身に着けていたエプロンを外しながら、天城は静かに続けた。 「でも、回収令が出されたのなら、俺は従わないとなりません。店長、ノアのこと――よろしくお願いします」 津黒は部屋の奥で埃を被っていた旧式のパソコンを探し出し、古書店のショーケースの上に置いた。 「うわー……動くかなこれ……」 試しに電源を入れてみる。機械は一応点き、反応があった。 「あ、大丈夫だ。ふう」 昔打ち込んだ小説のファイルを開いた――先日、音羽に渡した自作小説の続きを書いてみるつもりなのだ。津黒の作品を読み終わった音羽が、あの話に書ききれなかった部分について色々質問してきたので、その辺りをちゃんと書いて、また読ませてみようかと言う気になったのだった。 「あの音羽ちゃんが内容について訊ねてきてくれたって事は……まあ興味深く読めたと受け取っていいんだろうからな……」 津黒は独り言を言いながら、続きを打ち込み始めた。 音羽が古書店にやってきた時、津黒は古びたパソコンにはりつき、一心不乱にキーを叩いていた。 「店主?」 訊ねたが返事をしない。集中しているようなので、音羽は邪魔しないようにそれ以上声をかけるのはやめ、店の棚から本を取ってきて自分用の椅子に腰掛け、読み始めた。 「ふあー」 暫くして津黒が伸びをした。 「済んだのか?」 「うわあ!」 音羽が声をかけると津黒は飛び上がって驚いた。 「な、なんだ、音羽ちゃん……来てたのか」 「驚かせて申し訳ない。声をかけたが気付かないようだったので、勝手に本を読ませてもらっていた」 「そっか、もうそんな時間か――」 津黒は店の柱時計に目をやった。音羽が立ち上がって津黒に近付く。 「脱ごうか?」 「あ。ええと――」 津黒はしばし考えて答えた。 「今日、そっちはいいや……ちょっとそこらにコーヒーでも飲みに行かない?奢るから。なんか俺、アンタと話ししたい気分なんだよね――付き合ってくれる?」 「構わない」 音羽は頷いた。 財布をポケットに突っ込み、津黒は店を出た。音羽が出てくるのを待って施錠しようとしていると、激しくサイレンを鳴らしながら、パトカーが一台、窓の極端に小さな軍用車両を先導して走って来た。車はそのまま古書店の前に横付け、警官と武装した兵が数人、そこからばらばらと降りてこちらに走って来る。 「え!?サツ!?うわ!なに!?」 俺、何かやらかしたっけ!?津黒は顔を引き攣らせた。 「経過監察体2号!革命政府の回収令により、貴様を連行する!」 思わず頭を抱えた津黒の脇を彼らは素通りし、後ろにいた音羽を取り囲んだ。音羽は特に表情も変えず、黙って兵たちを見返している。 「ちょ、ちょっと――何事?」 音羽が後ろ手に手錠をかけられたのを見て――普通の手錠ではない。もっと頑丈そうな、手枷の様な物だ――津黒は慌てた。 「なんなんだよ急に!?こいつがなんかしたっての!?」 「経過監察中の政府軍製人造兵が一体、民間人相手に傷害事件を起こした。よって規定により、全て回収する事になったのだ」 兵の一人が答えた。 「規定!?回収!?どういうこと!?」 兵はそれ以上津黒には答えず、抵抗しない音羽を乱暴に引きたて、軍用車へと押し込んでしまう。 「ま――待ってよ!?音羽ちゃん!」 叫ぶ津黒を通りに残し、車はあっという間に走り去って行ってしまった。

ともだちにシェアしよう!