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第19話

「どうしてですかッ!?」 庁舎の窓口で銀嶺は必死に叫んだ。 「なんで取り次いでもらえないんです!?報道は全部、間違いなんですよ!?すぐに訂正してもらわないとならないんです!」 「銀嶺、落ち着け……」 一緒に来てくれたモデル事務所の所長が、銀嶺の肩を抱いてなだめた。 「あのう、こちらはもう……閉めますので……」 窓口の女性が困りきった顔で言う。 「あ、はいはい、すぐ行きます」 社長は答え、銀嶺を伴って窓口を離れた。 相模の職場で乱暴されかかったあと、銀嶺はやって来た救急車に無理に乗せられて病院へ連れて行かれ、そのまま入院させられてしまった。相模や、銀嶺を襲った作業員がどうなったのか、聞いても誰も教えてくれずわからなかった。じきに革命軍の、相模の監察担当官だという男が現れて、銀嶺に色々と質問をした。銀嶺は、相模には全く非が無いという事を懸命に監察官に説明した。 監察官は銀嶺の話を聞き終わると、書類に署名させて帰って行った。病院の検査が終わってから、モデル事務所の所長が銀嶺を引き取りに病院へ来てくれたのだが、銀嶺はそこで彼から、巷では事実と全く違った報道がされているという事を聞いて酷いショックを受けた。 マスコミの報道では、相模があの作業所で銀嶺に襲い掛かり、それを止めようとした他の作業員にも怪我を負わせた、ということになっていたのだ。その暴力事件のため、捕虜人造兵矯正計画は中止となり、他の二体の人造兵も即時回収になった、と伝えられていた。 聞いて銀嶺は青褪めた。自分の証言とはまるで違うではないか。一体どういう事なのか聞き質そうと、銀嶺は社長に頼み、病院を出てからすぐ、革命軍の人造兵の処遇を担当している部署へ連れて来てもらった。 だが散々待たされ、窓口をあちこちたらい回しにされたあげく、結局担当者が不在という事を知らされたのみだったのだ―― 「銀嶺、もうあきらめなさい」 運転しながら、社長が助手席の銀嶺に言った。 「なんにしても、政府軍製の人造兵は危険なんだよ。襲われた作業員は危うく殺されるところだったそうじゃないか。そんな凶暴なのに関わってたらろくな事にならないよ」 「違います!説明したじゃありませんか!」 銀嶺は叫んだ。 「相模さんは私を助けてくれたんです!あんな作業員――私が殺してやりたいくらいだった!」 悔しさのあまり涙が滲んでくる。 「落ち着いて――電話番号は預けてきたんだから、とりあえずその監察担当官と言う人が連絡してきてくれるまで待ってみなさい。そうするしかないよ。いいね?」 銀嶺は俯き、答えなかった。連絡はきっと来ない、そう直感した。今日の庁舎での様子を見ていたらわかる。あそこの人々は、この件で取り次ぐ気など最初からなかったのだ―― 私のせいで相模さんが……一体どうしたらいいのだろう。銀嶺は両手で顔を覆った。 連行された天城は、以前と同じ収容所へ運ばれた。あの狭苦しい部屋へまた入れられる。見ると、部屋の隅で相模がうずくまり、抱えた膝に顔を埋めていた。 「――よお」 相模は顔を上げず、それだけ発した。 「ああ」 天城は小さく頷いて答えた。 じき音羽が連れてこられた。手錠がはめられていた手首を擦っている音羽に、天城は 「久しぶり。どうしてた?」 と声をかけた。 「どうという事も無い――ノアは元気にしているか?」 「ああ、元気だ」 天城は答え、硬い床に仰向けに寝そべった。ノアの事は店長がきっと――面倒を見てくれるだろう。 「ノアは大丈夫――心配ない」 天城は自分に言い聞かせるようにそう言った。 「やっぱお前らも――回収になっちまったか――」 相模が呟く。 「すまねえ――別扱いにしてくれって頼んだんだけど……ダメだったな」 「いいさ。仕方が無いよ」 天城が言うと、相模は顔を上げて叫んだ。 「よくなんかねえよ!絶対――よくない!」 頭を掻き毟って言う。 「だって俺――きっとどこか故障してるに決まってるんだ!その俺とお前らとが同じに扱われたらおかしいんだよ!」 「故障?」 天城が聞いた。 「そうだよ、そうとしか思えねえ――だって、上官に楯突くなんてそんな恐ろしい事――今まで考えた事もなかったんだ!でも、先輩らが――銀嶺に――」 「銀嶺?」 音羽が尋ねた。 「あの、船で一緒だったネコか?」 「うん、そう――」 相模が頷く。 「銀嶺が――先輩に押さえつけられて泣いてるの見たら――気がつかないうちに身体が動いて――銀嶺が止めてくれなけりゃ、俺、先輩殴り殺しちまってた――」 「お前は……壊れてなんかいないよ」 天城は静かに言った。 「銀嶺が……先輩に何か酷い事されたんだろ?だったらそれを黙って見てられる方が、よっぽどぶっ壊れてる。俺だってノアになんかする奴がいたら、それが上官だろうが誰だろうが楯突く。音羽もそうだろ?」 「自分には個人的に近しいネコがいないので答えられない」 「だからさ、想像してだよ――」 「想像?」 音羽は暫く考え込み、頷きながら答えた。 「自分も恐らく、同じ行動を取るだろう」 「だろ?」 天城は強く頷いた。 「ほら、相模、お前は故障してなんかいない。お前が故障してるんなら、俺達だって故障してる。だから、同じ扱いで構わないんだよ――

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