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第21話

収容所の受付で、津黒が出した身分証を照会し終わった窓口の係員は冷たく 「面会は無理です」 と言った。 「なんで!?」 津黒は叫んだ。 「なにがマズイの!?」 「不正連絡が懸念されるので――申し訳ありませんが」 係員はそう言い、窓口のガラス戸を閉めてしまう。 「不正連絡!?ちょっとお!」 係員は席を離れ、窓口の内部は空っぽになってしまった――仕方なく津黒はそこを後にした。 津黒は音羽に面会を求めに来たのだった。 いきなり連れて行かれてそのまま何も音沙汰が無く、事情が全くわからなかったのだが、その後ニュースで、行動監察中の政府軍製人造兵のうち一体が暴行事件を起こしたため、矯正計画は中止、収容所から出されていた人造兵三体は全て収監済み、という簡単な報道があった。 ニュースでは、収監した兵を今後どうするのかまでは伝えられなかった。音羽の事が気になった津黒は収容所を訪れ、面会を申し込んだ。だがそれを、係員に拒否されてしまったのだった。 今までの所業が仇になったか――津黒は内心後悔した。とうに足は洗ったが、小遣い稼ぎのため二重スパイもどきの事をやっていた際、津黒のその怪しい動きに革命軍内の一部の人間が目をつけていたのは知っている。それが今さら、こんな形で跳ね返ってくるとは思っていなかった。 「……しょうがねえ、奥の手を使うか」 津黒は呟き、古書店へと戻った。 地下倉庫へ降り、書類が入れられている箱をひっくり返す。中にしまわれたファイルのうち、まだ使えそうな物を探した――レジスタンス活動時代に用意した、偽造品の身分証明書だ。簡単なチェックシステムなら恐らく今でも騙せるはずだ。 自分と年が近い物を選び、津黒は身分証を持って立ち上がった。そのまま今度は上へ行き、洗面所で、今しがた買ってきた毛染めと、安物の義眼を引っ張り出した――義眼は単純にはめ込むだけの物なので視神経とは繋げられないが、眼筋の動きには一応付いてくるようになっている。 脱色していた髪を黒く染め、眼帯を外し、義眼を入れる――瞬きを繰り返して義眼の収まりを確認しながら、津黒は 「なんで俺……こんな事してるんだろうなあ……」 と呟いた。こうまでして音羽に会いたいのだろうか―― 窓口の係員が、スーツ姿の津黒が差し出した身分証を端末で照会している。やがて彼は 「どうぞ――会えるのは十五分間です」 と言い、津黒に身分証を返してよこした。 礼を言い、別の係員に案内されて津黒は廊下を歩いた。 壁ばかりが廻らされて内部の作りがどうなっているのか全く見当がつかない。ぐるぐる歩かされていい加減うんざりしかかったとき、ようやく先導する係員が立ち止まった。彼は小さなドアを開け、津黒に中へ入るよう促した。 「制限は十五分ですので」 はいはい、厳しいことで。わかってますよ、津黒は内心でそう呟きながら、係員に向かって頷いて見せた。 中へ入ると、そこは小部屋になっていて、中央に窓口状の物が設えられていた。間に音声を通すための小さな穴があけられた分厚いアクリル板の仕切りがある。その前の椅子に腰掛けていると、仕切りの向こう側に、手枷を嵌められた音羽が姿を現した。 囚人服に着替えさせられるという事はないようだ。音羽は連れて行かれた当時のいつもの制服姿だった。 手枷も外してもらえないまま、音羽は仕切りの向こう側の椅子に腰掛けた。不思議そうな表情で津黒を見ている。 「音羽ちゃん、俺だよ。古本屋」 手で片目を覆って見せると、気付いたようで音羽は頷いた。 「いつものカッコじゃ会わせてもらえなかったから、ちょっとお洒落してきた――どうしてる?」 「どうということもない」 相変わらずの調子で音羽が答え、津黒は思わず苦笑した。 「なあ、何があったんだ?お仲間が暴力事件起こしたって聞いたけど」 「その通りだ。仲間が、職場の上司を殺しかけた」 「それでなんで音羽ちゃんまで捕まらなくちゃなんないんだよ?」 「始めからそういう規定だった。誰かがトラブルを起こせば、矯正プログラムが効いていないという事になるから、我々は皆同じ処分を受ける」 津黒は顔をしかめた。 「連帯責任かよ――俺、そういうの大嫌いだな」 「仕方の無い事だ」 「処分て――後どの位入ってなきゃならないんだい?」 訊ねた津黒の顔を音羽がじっと見る。 「ん?なに?」 「処分と言うのは解体処分のことだ。だからもう、自分はここから出られない」 「え!?」 津黒は驚き、声を上げた。 「解体!?嘘だろ!?だって音羽ちゃん、何もしてないのに!」 「言った通り、始めからの規定だ」 「そんな!連帯責任で解体だなんて、いくらなんでも酷すぎる!問題起こした兵だけ解体すりゃいいじゃねえか!」 「彼がトラブルを起こした原因を聞いたが、自分もその場にいたら同じ行動を取っただろう。危険度は自分も同程度だという事だ」 音羽は、抑揚のない声で小さく呟いた。 「……我々は、ここの人間にとって危険なのだ。だから治安維持のため、排除されるのが妥当ということなのだ」 「そんな!他人事みたいに――」 言いかけて津黒はハッとし、言葉を飲み込んだ。音羽の頬を――光る物がつ、と滑り落ちたからだった。 津黒は自分の目を疑った。 「音羽ちゃん――アンタ――泣いて――」 「え?」 音羽はぼんやりとした表情で津黒を見返した。枷の嵌められた手で自分の頬に触れる。 「……なんだろう?こんな現象は――初めてだ」 「だから!あんたちっとも解体されるって事に納得なんかしてないんだよ!イヤなんだろ!?ほんとは――怖いんだろ!?」 「そうなのだろうか?よくわからないがそうかもしれない……しかし――」 涙で濡れた指先を音羽は見つめ、答えた。 「しかし――これだけはわかる――店主の店に――二度と行く事ができないのは――とても、心残りだ――」 「時間だ!」 仕切りの向こう、音羽を後ろから見張っていた兵が怒鳴った。彼はすぐに音羽の脇に来て、腕を取って椅子から立ち上がらせる。小部屋から引き出されていく音羽の後姿に向かい、津黒はアクリル板に張り付いて叫んだ。 「音羽!俺が――お前を解体処分になんかさせない!待ってろ!俺が絶対お前をここから出して、もう一度店に連れてってやるから――!」

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