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第22話

津黒は収容所を出た後、闇雲に歩いて目についた飲み屋に飛び込んだ。飲まずにはいられない気分だった。 冷や酒をコップで出してもらって煽った。収容所で音羽が俺に見せた涙と、あの言葉――あれは、俺には――愛の告白と同じだ。 性欲がないとか感情が希薄だとかどうでもいい。音羽は俺の店に戻りたがってる。あいつにとって、あれ以上の求愛表現があるだろうか―― 「畜生!」 津黒は唸りながら店を出た。 「北村開けろォ!俺だよ、津黒だよ!いるんだろ!?」 酔っ払ったまま暗い道を行き、地下活動時代の仲間、北村の住む集合住宅を訪れた。ガンガンドアを叩いていると、中から北村が目を吊り上げて現れた。 「この馬鹿野郎!何時だと思ってやがんだ!?」 「ええとォ、午前一時半でっす!」 北村は津黒の姿を見てびっくりした顔をしている。 「なんだお前そのナリ!?あ!コラ!勝手に上がりこむんじゃねえよ!」 押し入るようにして津黒が部屋にはいると、奥の寝室からナイトガウンを纏った女性が出てきた。長い髪をかき上げて整えながら、津黒に挨拶する。 「津黒くんなの?久し振り」 「さ――小百合さん?」 津黒は唖然と小百合を見た。彼女は地下活動時代、メンバーの中で幹部クラスにいた人物だった。 「あんたら――できてたの!?」 急に酔いが醒め、津黒は振り返って北村を肘で小突いた。 「やっだあ……早く言ってよ……やるじゃん北村ちゃん……」 小百合は津黒達よりやや年嵩で知識と実行力があり、メンバーから一目置かれる存在だったのだ。 「ん?ということは……俺が涙で杯を満たしていた間、お前らベッドでイイことしてやがったんだな!?腹立つ!見てろよ、呪ってやるから!」 小百合が耐えかねた風に笑い出した。 「津黒くん、あなた一体、どうしちゃったの?」 「え?」 「その格好よ。就職活動?スーツ姿意外と可愛いじゃない」 「カッコ……?ああ、これ……よしてくださいよ……違いますよ……」 津黒はかいつまんで事情を説明した。 北村が呆れた顔をした。 「その人造兵に会いたいがために義眼まで入れたのか……お前がそこまで執着してるとは知らなかった。玩具にしてるだけだと思ってたのに」 「俺だってそのつもりだったよ。正直、自分が何やってんのか未だによくわかんねえんだ。でもさ、あいつときたら……自分が悲しんでるって事すら俺が教えるまで自覚できてなかったんだぜ……赤ん坊みたいなもんなんだよ――そういう純な生き物をあのまま解体しちまうなんて、酷すぎるよ――」 「確かに……処分がちょっと厳しすぎるように思うよなあ……」 北村が同意した。津黒はため息をついて続けた。 「だろ?だから俺……爆弾抱えて収容所に乗り込むしかないと思ってるんだ。そいで上手く行ったら小型の宇宙船でも乗っ取って、音羽と一緒に政府軍が統治してる星まで亡命する。そうだ小百合さん、火薬関係にツテありましたよね?紹介してくれませんか?」 「うーん……それは無理」 小百合は煙草に火をつけながら答えた。 「そっか……こんな私情たっぷりの計画に関わるのはヤですよねえ……」 津黒がうなだれると小百合は言った。 「そうじゃないわ。花火屋紹介するのは簡単よ。あの収容所を爆弾で襲うのが無理ってこと。あそこは普通の刑務所と違って人造兵専門の収容施設だから、強度が並じゃないの」 津黒は驚いた。 「あそこ、そんなに頑丈なの?」 小百合が頷く。 「人造兵って、力のあるタイプだと素手で鉄やコンクリートも破壊できるらしいわよ。そういうのを入れとくんだから」 「マジで!?じゃあ音羽ちゃんなんか……大人しい方なんだなぁ……」 「でもおかしいのよね……」 「おかしいって、なにが?」 つぶやいた小百合に北村が訊ねた。 「革命軍はあの施設を今後メインの人造兵収容所にして、捕虜にした兵は全てあそこに収監するっていう計画を立ててるんですって。だから大金かけてあんなに大仰なのを作ったらしいんだけど……」 「政府軍の旗色が悪いから、今後は捕虜が増えるだろ。だからそれを考慮して、ってことなんじゃ?」 「施設が必要なのはわかるわ。でも、なんでこんな片田舎の星を選んだのかその理由がはっきりしないのよ。この星は前線からも革命軍の本拠地からも遠いでしょ、輸送コストかけてわざわざここに捕虜を集めるなんて無駄としか思えない――他にもっと、適切な場所があるはずよ。それに今回の事の、妙に厳しい処分規定……まるで最初から兵が問題を起こすのを待ってたみたいな感じがするし……」 小百合は煙草をコーヒーテーブルに置かれた灰皿でもみ消し、電話を取り上げた。 「うーん、気になってきちゃった……浅田君に連絡してみよ。起きてるかな?」 「浅田に!?やめてよ!」 何故か北村が反応した。小百合が呆れた顔をする。 「浅田君とはなんでもないって言ったでしょ……」 「でもだめ!どうしても連絡するってんなら、俺がかけます!」 「へえ~……おもしろーい……」 津黒は言った。 「さてはお前……ヤツに小百合さんを取られやしないかとびくびくしてるんだね?」 「うるせえな!」 北村は津黒を睨みつけ、自分の電話を持ってきて浅田にかけた。

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