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第24話

状況がまだよく掴めない銀嶺に浅田は説明した。 今回の事――相模たちが収容所へ戻された事だが、始めから仕組まれていたのではないか、と浅田は言う。暴行事件に関係した人物――銀嶺も含めて、革命政府はプライバシー保護を理由にマスコミには被害者の名前を一切出していない。浅田はかなり苦労して、事件を処理した警察関係者から、被害者のうちの一人がバイオペットでモデルをしている、という情報を聞き出したそうだ。バイオペットのモデルと言うのは珍しいため、そこから銀嶺を探し当てる事は難しくなかった。 革命軍による公式発表以外の情報が全く出てこないのも不自然なのだが、以前の情報――政府軍製人造兵三人がテストケースとして解放になった際、その時には顔と名前も報道されたはずなのに、現在はそのデータを引き出すことまで出来なくなっているという。資源不足の昨今、新聞や雑誌もデータ配信が殆どで印刷される物は多くはないが、全く出されていないわけではない。なのに政府軍製人造兵に関する情報は、図書館に保存されている紙媒体にも一切残っていなかったそうなのだ。まるでこうなった場合にすぐ規制ができるよう、データ情報のみに絞られていたように思われる。 浅田の説明で、何かあるようだということは銀嶺にもわかった。 人造兵を解放したくない誰かが、おそらく革命軍の関係者の中にいるのだ。きっかけはなんでもよく、たまたま起きた相模の事件がきっと彼らに利用されたのだろう。 「もともと敵側の人造兵の解放計画に反対してた人も多かったというから、その人たちでしょうか?」 訊ねた銀嶺に浅田は答えた。 「それもあるだろうけどね。でも兵士連中が、実際にはそれなりに判断力があって大して危なくない、っていうのは会えばすぐわかることだろ。人造兵って言ったってベースは俺らと同じ生き物で、殺戮兵器とは違う。無差別に攻撃してきたりなんて事はないんだから」 銀嶺は夢中で頷いた。 「そうなんです!あの人たちは危険なんかじゃない。浅田さん――会った事があるんですか?」 「一度だけだがね。俺の悪友が人造兵の音羽ってぇのと仲良くしてて、その関係で。あの兵は力はあるらしいが、そこらのチンピラよりよっぽど大人しくて、凶暴でもなんでもなかった」 浅田は首を横へ向けて煙を吐いた。 「そうですか……音羽さんを……ご存知なんですか……」 音羽――あの船で一緒に乗り合わせた、いつも冷静だった人造兵だ。思いがけず懐かしい名前が浅田の口から出てきたため、銀嶺の彼に対する警戒心は一気に薄れた。 「おっかないから外へ出したくない、って言う程度の反対理由で報道規制までするとは考えにくい。多分、今後捕虜の解放が通例になると、困る奴らがいるんだよ」 「困る?どうしてでしょうか……」 「さあて、ね。それは色々突っついてくうちにわかってくるだろ。ところで銀嶺さん」 銀嶺は浅田の顔を見た。 「あんたが協力してくれると俺の仕事は大いに楽になる。だが――もし革命軍の上層部に目をつけられるような事になればモデルの仕事は続けられなくなるかもしれない。それは――構わないかい?」 銀嶺は即座に頷いた。それを見た浅田は満足そうな表情で、煙を深く吸い込んだ。

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