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第30話

それから数日が経過した。晋の食堂の二階に越して、なるべく普通に生活しようと励んでいたノアのところに、天城を預かっている研究所から連絡が入った。 天城の検査は全て終わった。身体機能の方には異常がなく、なぜ外部からの刺激に対して反応しないのかはわからない、と言う。研究所の検査技術では見つけることの出来ない種類の損傷が脳神経のどこかにあるのでは、との予測だったが、それ以上はどうにもならないらしい。 「政府軍の培養技術に関する情報がこちらにあれば……もっと何かわかるかもしれないのですが」 責任者だという研究員が、研究所に呼ばれたノアと晋に説明した。 「人造兵に関しては、残念ながら政府軍の技術の方が圧倒的に上なのです。元々が向こうの開発ですし――とりあえず天城君の治療に関してできることは全て試みたのですが、効果は得られませんでした」 「じゃあまさか……ずっとあのまま……?」 晋は恐る恐る訊ねた。 「わかりません……申し訳ないのですがなんとも言えないのです」 責任者は頭を小さく横に振った。 「彼が収監される前の環境に戻してあげてみてもらえますか?何かが刺激になって、脳機能が働き出すかもしれない」 ノアと晋は頷いた。 タクシーを呼び、二人は天城を連れて帰った。天城は無表情で何も言わず、促されるまま付いてくる。その様子には意思が全く感じられない。 店の前に着き天城を中に入れると、晋の父の安彦がいた。 「あれっ!?退院したのかい!?なんで連絡入れないんだよ!」 安彦は驚いて訊ねる。 「退院したって訳じゃないんだ……記憶が戻って反応が出るか、知ってるとこへ連れてって試してやってくれって言われただけだから……」 「そうなのかい……治ったんじゃあないんだね……」 「おやじさん、ごめんね」 ノアが申し訳なさそうに詫びた。 「お店も……ずっとちゃんと手伝えてないのに、こんなことになっちゃって……」 「店のことは心配いらない。ノアちゃんが謝ることないんだよ」 安彦は優しく言った。 「さて、と。じゃあまず、オムライスでも食わせてやるかね。美味いって言ってくれてたからな」 安彦は腕まくりしながら厨房へ入っていった。 開店前の食堂で、ノアは安彦が作ってくれたオムライスを天城と一緒に食べた。スプーンを握らせたが、天城はそれを使う事ができないようなので、ノアがすくって口元に運び、食べさせてやった。天城は機械的に口を動かし飲み込むだけで、味もわかっていないようだ。 「天城さん……」 ノアは小さな声で呟いた。 「美味しいって言ってよ……初めてこれ、食べた時みたいに……」 天城の横顔を見つめながらノアは思った――天城さん、僕が、ちゃんと世話するから。天城さんの心が戻ってくるまで、ずっと待つから――

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