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第38話
仲間の一人が音羽を後ろ手にし手錠をかけているのを眺めつつ、越野は煙草を取り出して火を点けている。
「……俺にも一本くれ」
津黒が言うと、越野は煙草の箱を放って寄越した。
貰った煙草にライターで火を点けながら、津黒はブツブツ言った。
「全く……銃突きつけられたのなんて久々だよ。のんびり隠居生活送ってたのに」
「爺ィかよ、情けねえな。後先考えねえでこんなのの保護者やるからだろ――ま、相手がお前で話早かったから、こちらとしては助かったがな」
「……ほんとに他の人造兵も狩り集める気なのか?」
「この計画は始めたばっかりなんでまだわからねえ。こいつを市場に出してみて、その金額次第かな。だがもう一匹は革命軍が直に世話してて、手を出しにくそうなんだよ。残りはネコと暮らしてるらしいから、まあ狙うんならそっちかな。聞いた話じゃネコも良い値になるようだからまとめてとっ捕まえてもいいし」
「ふうん……」
津黒は煙を吐いた。
「さあてと、行くとするか」
越野が吸い差しの煙草を床に投げ捨てながら言った。
後ろ手にされた音羽を引き立てながら、男達は地下室へと降りた。越野が津黒に訊ねる。
「念のため聞いとくが――サツにたれこむ気はないだろうな?」
津黒は肩を竦めて見せた。
「連中に関わりたくないのはこちらも同じさ――念のために俺も聞いとくけど、ちゃんと分け前寄越すんだろうな?今まで面倒見てきた分は取り返させてもらわないと損になる」
前を歩かされている音羽がわずかに津黒を振り返った。だが例の棒を見せられて脅されたため、すぐ目を逸らした。
越野が答える。
「心配するな、ちゃんと払ってやる」
「お前ら、どこを根城にしてるんだ?前と同じか?」
「ああ、同じだ――」
言い残して越野たちは地下通路に姿を消した。
煙草を咥えたまま、津黒は暫し地下通路の入り口に突っ立って四人が消えた方向を見やっていたが、やがていきなり煙草を投げ捨ててそれを思い切り踏み付けると、倉庫の階段を駆け上がった。そのまま部屋へ駆け込みジーンズに両脚を突っ込むようにして履き、電話の脇に置いてあったメモを引っつかんで、鍵もかけずに外へと飛び出した。
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