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第67話

矢畑にそんな依頼をされて、ノアは役場の人達とバイオペットの受け入れ準備をすることになった。 役場は彼らの滞在場所に公営の小さな保養施設を予定していた。露天風呂が近く、やや小高い場所にあるので眺めも楽しめる。ここはどうだろうかと聞かれたノアが、こんなに良い環境でゆっくり休めれば、きっとだれでもすぐ元気になると思う、と答えると、矢畑はじめ役場の職員たちは嬉しそうな様子になった。この星の人は皆素朴で優しいのだ――春さんが都会の暮らしを捨て、ここに居付いてしまった理由がよくわかる。 やがて、革命軍によって保護されたバイオペット達が移送されて来る日になった。 今回ここで預かるのは12匹だそうだ。同じ仲間がいるのを見れば心強いのではと矢畑が言ったためもあって、ノアも一緒に宙港へ彼らを迎えに行くことにした。 ノアはある程度予想していたので驚かなかったが――矢畑と、もう一人一緒に来た役場の職員は、宙港に連れて来られたバイオペット達の様子を見て――随分とショックを受けたようだった。 元々、人に抵抗できないように骨細で筋肉量も少なく、愛玩用途のため大きく成長することも無いように設計されているネコ型のバイオペットだが、悪環境のためだろう、それが更に痩せ細り――ひどくみすぼらしい、哀れな姿になっていたからだ。 ここはさほど混雑しない片田舎の小さな宙港だったが、それでもネコ達は周囲の音や人に怯えてしまっているようで――皆黙りこんで目ばかり大きくし、ひとかたまりにロビーの隅で身を寄せ合っている。 「矢畑さん――大丈夫ですか?」 傍らで息を呑んだようになって立ち尽していた矢畑の袖を引き、ノアは小さく声をかけた。 「えっ!?あ、ああ、うん」 我に返って矢畑は、ネコたちに向かって説明を始めた。 「あの、ええと――僕らが君たちの世話を担当します――僕は、矢畑と言います。あの、今から、泊まる所に案内しますんで、一緒に――」 「ちょ、ちょっと、矢畑君」 書類を確認していた職員が口を挟む。 「一人足りないみたいなんだけど――」 「え!?まさか!乗り遅れかね!?ちょっとまって――」 慌てて数を再確認しようとした矢畑に、年嵩らしいネコが言った。 「あのう――乗り遅れじゃないです……一匹、席に座れないのがいて」 「席に座れない?」 そのネコは頷くと、辺りを見回した。 「あ、多分、あれ――」 「あれ?」 ノアも一緒に彼が指差した方を見た――貨物係らしい男性が二人、布を被せた箱状の物を台車に載せて運んでくる。 「ケージで来たんです」 「ケ、ケージ!?」 矢畑が驚いて声を上げた。 「ケージって……檻!?なんでまた、そんな……」 「危険だから……」 彼は呟くように答えた。 「あのネコ、僕らとは違う場所で保護されたんだけど――そこでは他のネコはもうみんな死んでて、生きてたのはあいつ一匹だけだったんだって……でもあいつも壊れかかってるらしくて、耳も聞こえないみたいだし、目も見えてないんです。人が近付くと暴れるから、ああしてケージに入れとくしかないって――」 「そちら役場の――担当の方ですか?」 台車を押してきた係員が聞いた。矢畑が答える。 「あ、はい!そ、そうです」 「この子で最後です――あ、中に手、入れないようにね。気配で気づいて、噛み付いてきますから」 「は、はあ……」 係員達は、では、と頭を下げて離れて行った。 「ま、参ったな……革命軍の人はこんなこと何も言ってなかったのに。んん……しかしまあ、しょうがない。なんとか世話して、良くなってもらわんとね」 言いながら矢畑はケージの前にかがみこんで、被せられている布の端を恐る恐る持ち上げた。中のネコは、縮こまるようにして檻の隅に身体をぴったりくっつけ、じっとしている。 「な、なんだ、おとなしいじゃないか」 ほっとしたように呟いた矢畑の手元越しにケージの中を窺って――次の瞬間、ノアは愕然として目を見開いた。体中の血が一気に引いた気がし、手先が冷たくなった。震える声で呟く。 「キオ――」 痩せ衰えて様子はかなり変わっていたが、すぐにわかった。ケージに入れられていたのは、連絡船に売られる以前、置き屋でノアと兄弟同然に過ごしていたネコ――キオだった。

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