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第68話

「まさか……ノアちゃんの親友だとは思わなかったよね……」 春さんの淹れた茶をすすりながら、矢畑が呟いた。 「あんな形で再会させちゃうなんて……可哀想な事しちまったよ、ホント」 「仕方がないよ……お前だって、そんな状態の子がいるとは聞いてなかったんだろ」 卓袱台の前に座って春さんは、縁側に目をやった。そこには膝を抱えてぼんやり裏山を眺めているノアの姿がある。 「それで……そのキオ君て子は今はどうしてるの?」 尋ねた春さんに、矢畑は憂鬱そうな表情で答えた。 「移動のせいでかなり怯えてるみたいだったから、まずは落ち着かせてやろうって話になって……保養施設の個室にそのまま運び込んである。ケージの扉は開けておいたけど、目が見えてないからねえ……耳も駄目らしいし」 「そう……」 「あれじゃ温泉で療養どころか……どう世話してやったらいいもんだか……」 矢畑は深いため息をついた。 春さんは茶を注いだ湯飲みを手にし、立ち上がって縁側のノアのところに行った。 「……ノア君、お茶飲むかい?」 「あ!すいません。いただきます」 ノアははっとした様子で春さんを振り返った。 「今日は大変だったね……驚いたろ」 「はい……」 湯飲みを受け取りながら頷く。 「置き屋にいた仲間が……キオ以外みんな死んでしまったなんて……まだ信じられなくて……」 「うん……」 春さんはノアの隣に腰を下ろした。 「キオ……」 ノアは呟いた。湯飲みを持つ手が僅かに震えている。 「みんなが……死んでいくところを見てなきゃならなかったなんて……どんなに……怖かっただろう……。僕……前の持ち主に役立たずだって見放されて……連絡船に売られて……辛いと思ってた……でもキオの方が……ずっと辛い目にあってたんだ……それであんな状態に……」 ノアは湯呑を傍らに置くと、立てた両膝に顔を伏せてしまった。 「僕、戦地から遠いところにいて……今までなんにも知らなくて……キオに……みんなに申し訳ない……」 「ノア君が責任を感じなきゃならないことなんか何も無いよ」 春さんはきっぱりと言った。 「これは全部、僕ら人が引き起こしたことだ。だから、君が仲間たちに申し訳なく思う必要なんてこれっぽっちも無い。人間の我侭な思いを人造生命体に引き受けさせるのは間違ってると、僕らはやっと気づき始めた。そのため革命が起きたんだ」 顔を上げたノアに向かって、春さんは続けた。 「ノア君がここでキオ君に再会したのは、君が彼にしてやれることがあるから――だからなんじゃないかと僕は思うよ――」 そう言った春さんの顔をノアは暫く見つめていたが、やがて頷いた。 「はい――僕も――そう思います。これから、僕がキオのためにできること――全部やろうと思います」

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