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第72話

「まったくもう……音羽ちゃんてば、いつの間にこんなに仕入れたんだよ……」 津黒は小声でぶつぶつ言いながら、配送業者が店先に積んで行った本の詰められた重い箱を持ち上げようと苦闘していた。 「こういうのがめんどくせえからテキトーに商売してたのにさあ……」 「何か問題が!?」 地下倉庫から音羽が叫んでよこした。彼は相当な重量があるはずの箱を簡単に抱え上げ、津黒がよろよろと一つ運ぶ間にさっさといくつか持って行ってしまっている。 「地獄耳なんだからなもぉ……問題なんかないですよッ!大事な腰が悪くなったらどう責任とってもらおうか、なんてぇことも全然思っちゃいませんし!」 首を捻って津黒が叫び返していると、ふいに持っている箱が軽くなった。驚いて前を見ると、いつのまに来たのか天城がそこにいる。 「あっ――天城さん!?」 津黒はたまげて大声を上げた。よろめいた拍子に思わず津黒が放してしまった箱を、天城は片手で易々と受け止めた。 「申し訳ありません、驚かせて……」 詫びる天城の表情が以前会った時と変わらず穏やかなのを認め、津黒は内心ほっとした。 「あ、や、いえ……あ!すみません!それ」 「自分が運びますよ」 天城は言って、足元にあった箱をもう一つ持ち上げ、持っていた箱にぽんと重ねて肩に担いだ。残りの箱もひょいと抱え上げる。 「いやっ、そんな……そんな事してもらわなくとも……!」 そこへ音羽が、やや慌てた風に現れた。 「班長!?一体どうし――」 「よお音羽。元気そうだな。これ、どこに?」 「地下だが……」 階段を降りていく天城の後姿を見送りながら、津黒と音羽は顔を見合わせた。 「この間は――手荒な事をしてすまなかった」 店の奥にある居間で天城が詫びた。 「いや。あれは……自分にも責任があることだったから――」 音羽が答える。 「しかし班長、頭痛は……あれからどうなのだ?」 「すっかり治まったよ。もう薬も必要ない……」 天城はなぜか寂しげに答えた。 「今日はご挨拶に来たんです」 天城が津黒の顔を見て言う。 「挨拶?」 「はい。先日――自分は革命政府に、兵役を志願する届けを出しました。なのでおそらく、近いうちにこの星を離れることになると思うのです」 「えっ!?」 津黒は驚きの声を上げた。 「驚かれるのも無理はありません――ご存知の通り、自分は元は政府軍所属の人造兵です。いわば敵兵だったわけで――受理されるかどうかは実際のところまだわかりません。これから適性検査があるので、戦地へ出られるかどうかはその結果次第ということになります。しかし自分は、革命政府によるデータ上書きを受けていますから、合格する率は高いだろうと研究所の方には言われています」 「だっ、だけど……!あんたせっかく戦いに行かずにすむようになったんじゃないか!なのにわざわざ――」 津黒の言葉を天城は遮った。 「ええ、ですが――色々考えた結果、やはり自分は戦闘用に作られた人造兵で……ここで普通に生活させてもらっても、あまり意義を感じることが出来ないとわかったのです……」 「それは……ノアを失ったからか?」 そう尋ねた音羽に天城は微笑んで答えた。 「正直に言えば……そうだ」 音羽が肩を落とす。 「すまなかった……」 「いや、いいんだ。その事について俺は誰も責める気は無いんだよ。だから音羽も、もう気にしないでくれ」 天城が、吹っ切れたような様子で答える。 「戦地で働ければ……俺にはそれが一番なんだ。それこそが俺の唯一やるべきことなんだから。ちょっと遠回りしたけど、やっと本来の道に戻れたんだよ。だから俺は……これで満足なんだ」

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