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第四章・18
逸朗は、ボロボロの旭に、そっと自分のブレザーを掛けてやった。
そのまま店外へ出て、素早くタクシーを拾う。
「『アドヴァンス北町』ってマンションに行ってください」
旭は、ぼんやりとそれを聞いていた。
(真柴くん、僕のマンション覚えててくれたんだ)
名前も教えていないのに、それを知っている。
注意して、見ていてくれたということだ。
終始うつむいている旭に、乗務員は気が付いた。
「お客さん、大丈夫? 吐くなら言ってくださいよ、車止めるから」
「すみません」
代わりに謝る逸朗に申し訳ないと思いつつ、旭は歯を食いしばっていた。
気を抜くと、本当に吐いてしまいそうなのだ。
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